第7話

乗車していた電車が車両故障の影響で大幅に遅れたため

女が目的の駅に降り立った頃には、とうに約束の時間を過ぎていた。

指定した居酒屋は駅前の大通りを渡り、商店街を抜けた先にある。

急がなきゃ。

女は焦っていた。

彼が来てくれる保証はないが―――――

来て欲しい…

国道を横切る横断歩道に差し掛かった時、青信号が点滅を始めた。

一瞬の躊躇いの後、車道へと駆け出す。


けたたましいクラクション。

耳をつんざく急ブレーキの音。

間近に迫る大型トラック。

打ち付けられるような、激しい衝撃。

聞こえてくる悲鳴と、怒号。

遠退く意識―――――そして暗転――…


「あのトラックと…」

稲妻に貫かれたような激痛が走り、女は呻き声を漏らすと

その場にくずおれた。

「―――やっと思い出したみたいですね」

涼やかな声に顔を上げる。

「私…死んじゃったの?」

女の問いに、少年は曖昧な微笑みを浮かべ、ほっそりとした

腕を差し伸べた。

繊細な指先が触れた瞬間、あまりの冷たさに全身に鳥肌が立った。

それと同時に、ずっと感じていた痛みや吐き気が嘘のように

消えていく。

代わりに忍び込んでくる、死の恐怖。

女は立ち上がると少年の両肩を掴み、大きく揺さぶりながら

「嘘でしょ!ねぇ、私行かなきゃならないのよ。

 お願い、助けて。死ぬなんて嫌!」

あらん限りの声で叫ぶ。

嫌だ!嫌だ!嫌だ!死ぬなんて―――――絶対に嫌だ!

彼に会いたい!会って確かめたい!行かなきゃ!行かなきゃ―――…

少年は静かな目で女を見上げた。

漆黒の瞳は、見つめていると吸い込まれてしまいそうだ。

深く濃い闇のよう…


唐突に少年の頭上にバスケットボール大の、光の球体が現われた。

刺すような眩さに、反射的に身体を離し目を細める。

球体から発せられる光は徐々に弱まり、滑らかな曲面に黒い染みが広がった。

それは次第に像を結んでゆく。

女は息を呑んだ。

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