ブラックな職場をぶっ潰せ!

マムルーク

労働なんかくそくらえ!

「いいか! お前ら! 利益を出さない社員はクズだ! そんなダメなお前らを雇ってるんだ。感謝しろ!」

 俺を含め、ほか3名の社員が社長に怒鳴られている。今日は本社にある社長室へと呼び出された。

 俺の名前は如月充(きさらぎみつる)。四月から入社し、今月で四ヶ月になる。入ったこの株式会社タミワタルはものすごいブラック企業だった。

 飲食店のチェーン店を経営している会社なのだが、入社二日目でいきなり店の店長にさせられ、赤字が出ると改善点を出すようレポートを提出させられ、さらにわざわざ怒鳴りに社長がやってくる。

 社長の野郎は、「人は感激を食べれば生きていける」などという意味不明なことをほざいている。挙句の果てに「昼飯を食べるやつは二流」などと言っている。

 自分はばっちり食べていたくせに。

 さらに毎日、早く出勤させられ、店内を掃除させられる。社長曰く、「パートよりも働いている人たちが真心を込めて店を掃除しなければいけない」とのこと。

 社長室は、パートの人が掃除していると先輩が以前、言っていた。

「お前らみたいなクズはコツコツ働くしかないからな。ああ、そうだ。カンボジアの子供たちのDVD見て、レポートを出せよ。お前らはカンボジアの子供達より114514倍恵まれてるからなぁ」

 仕事をやめたい......

 俺は働いてからいつもそう思っている。就職活動では内定がなかなかもらえず、この会社でようやく内定を貰うことができた。しかし、休みがほとんど取れず、いつも長時間労働をしている。

「まぁ俺は優しいからな。せいぜい、しっかり独り立ちできるまで育ててやるよ!」

 社長が偉そうに言っている。

 もうごめんだ。何が会社だ。何が労働だ。何が24時間365日働けだ。死ね、このクソ社長が。

 労働は悪だ。もういい。このままばっくれてやる。

 そう思った時ーー


「力を貸してやろうか?」

 脳内に誰かが話しかけてきた。

「な、なんだ!?」

 俺は声に出して驚いた。幻聴が聞こえてきた。よほど精神的に追い詰められているのだろうか。

「お、お前どうした?」

 社長が俺の行動に驚いたようで、疑惑の表情で見つめている。

「そいつをとっちめるのを手伝ってやろうか? 力を貸すぞ。ただし、対価として寿命の半分をもらうけどな。どうする?」

 幻聴ではない。確かに、はっきりと聞こえてきた。

「頼む」

 俺は誰ともわからない声に協力を求めた。どうせこのまま仕事を続けても、うつ病になって寿命を続けることになるし、最悪自殺するまである。

 なら、寿命が半分になっても構わない。

「あいよ」

 すると、俺の身体からなんとも言えない気力が湧いてきた。希望に満ち溢れているような昂揚している気分。麻薬を使ったことはないが、使ったらこんな気分になるのだろうか。

「おい、お前! どうしたんだ?」

 社長が顔を近づけてきた。俺と社長の目が合った。俺は社長の額に手を当て、

「エバポレイション」

 と唱えた。

「は?」

 社長がそう言った次の瞬間、

「うわぁぁ! 熱い!」

 社長が叫んだ。頭から足へと、順番に煙を立てて、文字通り社長が蒸発していった。


「な、なんだ!」

「何が起こった!?」

 俺と一緒に社長とドヤされていた他の三人の社員がビビっていた。俺は無言で彼らに近づいた。

「社長を消してやったんだ。これで少しはいい会社になるだろう。じゃあな」

 俺は扉を開け、社長室を後にした。すると、パチパチと拍手が聞こえてきた。


「あ、ありがとう......」

「君は神だ!」

「本当、嬉しいよ! 最高だ!」

 三人から賞賛された。やれやれ、誰も社長が消えて悲しまないなんて、とんだ人望のない社長だな。存在価値があったのか?

 会社を出ると、空から誰か降ってきた。降りてきたのは、蒼色の髪をし、透き通るような白い肌をしているゴスロリ服をした美少女だった。

「お前が契約者か」

 透き通るような声でそう言った。脳内に話しかけてきた声に似ていた。

「お前がさっきの声の主か。俺はどうなったんだ?」

「一瞬で人間を消す力を手に入れた。これで嫌いな奴を跡形もなく消せるぞ」

 無表情のままものすごい物騒なことを言った。

「なるほど。でも、寿命が半分になったのか......」

「ああ。だが代わりにお前は寿命以外で死ぬことはなくなった」

「ほ、本当か。それは嬉しいような嬉しくないような」

「お前は働かなくても生きていけるということだ。契約の影響で腹も減らないし、喉も乾かなくなった。後、銃で打たれても刀で切れても死ぬことはない。満足じゃないか?」

 なるほど。確かに寿命以外で死ぬことがないなら一日中だらけていても問題ないだろう。

 だが--

「俺はブラック企業、いやブラック企業の社長をかたっぱしから消してやる」

 俺の言葉に美少女がニヤリと笑った。

「ほう?」

「労働者を搾取し、亡くなった家族が証拠不足で泣き寝入りしてしまう。この腐った世の中を俺が変えてやる。手始めにブラック企業の社長を消してやることにした」

「ははは! いいな、それ。面白くなってきたぞ。微力ながら私も協力してやるぞ」

「ところでお前、名前は? というか、普通の人間じゃないよな。何者だ?」

 俺は今更ながら美少女に名前と正体を聞いた。

「私か? 私は関水美園(せきみずみその)。私は幽霊だ。信じられないかもしれないがな」

 俺はその言葉にとても驚いた。俺には霊感がない。なのに、美園の姿をはっきりと見ている。

「ほ、本当か? なんで、俺に見えるんだ?」

「多分、同じ境遇だったからだろう。それで波長が合ったんだ」

「境遇?」

 そう聞くと、美園は元の綺麗な顔とはかけ離れた、この世の物とは思えないくらいの恐ろしい表情をした。

「私もブラック企業で働いていた。耐えられなくて自殺してしまった。私も恨んでいるんだ。ブラック企業を」

 そうして、俺たちのブラック企業潰しが始まった。


 この後、日本の会社がどう変わっていくかいうのは、それぞれの想像にお任せしよう。












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