L ボクとロトス君

―――>アポロ

―――≫龍の背鰭の小高い丘


筋肉マッチョなオジサマ達(ディオさん、ビックス、ウェッジ)は、酒に満足したらしく早めに寝てしまわれたようです。



『ドラキュラ』というキラキラなネーミングに引かれて、是非会ってみたいという好奇心がボクを動かしたんだ。


ボクをワクワクさせておくれ。


旅は刺激がなければ楽しくないですからね。


さぁ、大冒険の始まりだっ♪


ボクは、大きく飛び出した。



フード付きの毛皮のポンチョを揺らしながら、颯爽と龍の背鰭の丘を駆け下る。


ふかふかで暖かい(ディオさんのペットだったらしい)妖精兎の毛皮で出来たポンチョに包まれているとは言え、肌寒いことには変わりない。


――まだまだ寒くなりそうです。冷えは女子の天敵ですからね。



小柄なバックを肩からぶら下げて、荷物は旅に必須な毛布だけ入れてます。


――暖かい毛布、大好き。アレがないと寝つけないんだ。


右手に持ったヂャラソで位置を確認する。


森を抜けると、もうすぐドラクロア城第一城門だ。




―――≫ドラクロア城第一城門前


見下ろせば城へと続く長い橋が見える。


その入り口へと続く城門も森の先の方から見え始めました。


後、数十メートルの森を潜り抜ければ良さそう。



そう思った矢先――


森の中に大きな広場が現れたのです。



――おや?


見ると、隕石が落ちた時にできるようなクレーターがありました。


さっき見た流れ星さんはここに落ちたのかな?



星が落ちたにしては小柄に思える。


大きさは直径5mといったところでしょうか。


例え別の何かが落ちてしまったとしてもかまいません。



それでも――……


「恋人が欲しいという願いは叶えて頂きたいのですが、だめですか?」


――いつもの独り言を言ってみます。

 


「いいですよ」


――ドキリ!!


まさか返事があるとは思いませんでした。


後ろを振り向くと、くすくすと笑いながら木陰に座っている人物がいました。


手には開いた本。


月明かりで読んでいたのでしょうか?



――ん?


まさかのドラキュラさん?


そう思ったんだけど、違うようです。


白いローブを頭まで被った小さな子供でした。


10歳くらいの男の子でしょうか?



ボクの口は自然と開いていた。


「君の名前は?」と。



「ボクの名前は、ロトス」


幼く高い声。


本をパタリと静かに閉じて、ゆっくりとこっちを見てくれました。

 

 

頭にかかったローブを脱ぐと、さらさらの金色の髪を風が揺らします。


ふわりとした心地よい香りは、ピンクローズの香りかな?


月の光に照らされて輝いたのは彼の左目。


片方の目だけ緑色なんて、神秘的ですね。



人差し指を立てて、開口一番


「お姉さんは、恋人が欲しいのかい?」


――……。


――……?


――はっ?



唐突な質問にドキリとした。


ボクの顔は赤くなっていただろうか?


それとも、上空から差し込んでいたレッドフルムーンに照らされて、頬の赤みはうまくごまかせたのでしょうか?


ボクは、どちらかと言えばからかう方。


からかわれるのは慣れていなくって、上手く誤魔化そうと平静を装いながら言葉を伝える。



「お姉さんくらいになると人恋しい夜もあるのだよ――」と。


ここは、大人な答えで余裕を見せれ――ましたかね?



「ボクはアポロ。 よろしく」


お互いに握手をした。


昔から知っているような、何処かであったことがあるような――


不思議な雰囲気を持つ子だった。


気になったのは、人差し指に嵌めた指輪だった。


彼の左目と同じように緑色の輝きを放っていて、不思議な力が込められているように思えた。


 

「ロトス君は、こんなところで何しているんだい?」


人っ子一人いない森の中で子供が一人。


気になったのです。


さっき教えてもらった名前と、ボクの疑問を投げかけた。



「眠る前に本を読んでいたのさ」


「へぇ~、どんな本だい?」


ボクが聞いてみると、手に持った本を見せてくれた。



所々汚れているアンティーク風な厚めの本。


「なかなか面白いお話なんだよ」


そんなに面白いなら読んでみたいな♪


ボクも絵本の類は好き☆彡



――ぱらぱら、ぱらり。


中を開いてみると、見たこともない文字で書かれているために――読めない。


何より絵が無い――って事は、面白くない。


――あっ、決してボクの頭が悪いわけじゃないんだ。


普通の字くらいは読めるんだからね。


「(内容は全く理解できなかったけど)とても素晴らしい本だねぇ」


本の外観の良さを褒めるという、高度な大人のテクニック。


本と一緒に、笑顔も返した。



気になったのは、白紙のページが半分以上あったこと。


その疑問に答えてくれるように、ロトス君が話す。


「まだ完成されていないお話なんだけどね」


そうなんだ。


「ということは、本の続きを探すか、書いてもらわないとね」


「そうだね! 旅の目的の一つなんだ」


――?


「一つというと?」


ついでに聞いてみた。


「うん! ボクは、神を探す旅に出ているんだ」


――!!



嘘を言っているようには見えなかった。


この子は、何故かやりにくい。


ボクと雰囲気が似ているからなのかな?


ボクが得意なおちゃらけたペースが崩されて、ロトス君のペースに持っていかれるのだ。


君は、心が読めるのかい?


それとも、見た目以上に精神年齢が高いように感じるからかな?



「お姉さんは何をしているんだい?」


――あっ、ボクの目的を見失う所でした。


「ボクは今からあの城に行かなきゃ。 一緒に行ってみるかい?」


子供連れのお散歩も面白そうです。


「月夜のデートも良いのだけど、良い子は寝る時間なのです」


――ガーン。


あっさりと断られるボク、撃沈。


森の方を指さして、そこに吊るされたハンモックが目に入った。



「そっか。 寒くないかい?」


ロトス君は、両の二の腕を手の平でこすり合わせながら


「寒いの苦手だけど、我慢します」と。


その姿勢謙虚だねぇ。


苦手なものまで一緒とは。



寒空の下に子供が一人――


例えば、道に子犬が捨ててあったとしよう。


凍てつく真冬の寒さに凍えていたとしたら、誰が放っておけるというのだろうか?


いや、ボクには我慢できなかった。


「これ、使いなよ。 ふかふかであったかいよ」


ボクは、大事で大切なポンチョを脱いで、渡してあげた。



「ありがとう♪」


ロトス君を手招きして、着させてあげます。


「似合う似合うー」


「もふもふしていて、あったかい」


喜ぶ君の声は、ボクの心と体を温めてくれます。


「これは珍しい妖精兎の毛皮でできた温かいポンチョなのだよ。 ある人が飼っていた兎さんをちょっと拝借して、毛皮を刈り取り、自分に似合うように作ってみたんだ」


その後で兎鍋にして食べてしまったことは、内緒にしてあるんですけど。



着せ替えロトス君の微笑ましい姿を見て、我が子のように喜ぶボク。


こ、これが聞きしに勝るといわれる、母親の愛情なのか。


「眠れそうかい?」


「うん。 あっ、お姉さん。 お城に行くなら気をつけてね」


「はーい」


と、一つ返事で返したものの――


気を付けてねの意味は、この時のボクは分からなかった。


暗いから気を付けてね――程度に思っていた。


まさか、ドラキュラさんがいるから気を付けてねだなんて言わないだろうし。


そこまで深い意味は無いんだろうと、思っていた。



「ロトス君、おやすみなさい」


そう伝えて、ボクは先に進みました。

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