L プレリュード

 

―――>アポロ視点


時は4月9日、ドラクロア一族の『王珠継承の儀式』前。


ここから、ボクの旅が始まったんだ――……。




―――≫竜の背鰭(リュウノセビレ)


頬を撫でる風の冷たさを感じ、毛布で包んだ手に力が入る。


――まだまだ寒いねぇ。


寒いの苦手なんだ。



ここは、リュウノセビレと呼ばれる所らしい。


高さ2~30メートル級の1枚岩が数え切れないくらい存在していて――


丁度そのごつごつとした質感が龍の背鰭のように見える事から、そう名付けられたそうだ。


ボク――


いや、ボク等は、その背鰭の間に位置した小高い丘の上居た。



辺りを見渡すと――……


先端が尖って岩肌がノコギリ状のものや、丸く穏やかな蝋燭のようになっていたり、アレはキノコかな。


形は様々で面白い形の岩が存在している。



旅人マークが書いたとされる旅行ガイドブック『ヂャラソ(ドラクロア地方版)』を読みながら現在地を確認する。


日は既に落ちており、一際大きな岩となっているこの場所に小さなキャンプを作ったのは数時間前。



丘の上から見る夜空は澄んでいて、星が宝石のように輝いています。


恋人と一緒にいたならば素敵な夜を送れるのでしょうね。



――あっ、流れ星。


見据えた先には空の黒を割るように落ちていく青白い光があった。



星に願います。


――素敵な恋人ができますように☆彡と♪



そして眼下には――……


今回の目的地であるドラクロア城。



さっきの流れ星が城の近くに落ちていったようですけど、直撃しなくてよかったですね。



ここからの距離は約5キロといったところだろう。


城は流れが急な川に囲まれており、その中にポツンと立っているのが特徴だ。


とても幻想的に映える 島の上に立つ古城。


海面から城頂上までの高さは150m、城郭の広さはコロッセオとして有名なTKドーム約6個分のようです。



自然な炎の光を発して浮かび上がっているように感じるその城は、叙情的でいて命のハカナサを表現しているかのようです。


――なんてロマンチストなんだろう。


自画自賛♪



城までの道は『龍の首』といわれる長さ1kmの橋を通らなければならないらしい。


それにしても、地形・地名含めて――


「龍尽くしですねぇ。ドラゴン討伐にでも行くんですかぁ、ディオさん?」と、ボクは問う。


ラフでグシャグシャの髪を手でかき上げながら、バッカス(酒)の入ったビンを一飲みした彼に向かって。



「(龍尽くしついでの)ドラゴン退治なら気が進むんだが、今回はゼス王からの伝書を渡す事が目的だ――」


彼はいつものようにイラついていた。



手紙を渡すだけという単純なお使い任務がめんどくさいのですかね。


元々の短期な性格も相まって、生き場のない苛立ちからなのか――


獲物を刈るような鋭い眼光で城を睨みつけている。


城への八つ当たり。



――怖いよぉ、ディオさん。


歳にして28。


ボクより8つも年上なんだけど、フケガオ――


もとい、彫りの深いお顔立ちのおかげで、オジサン――


もとい、年齢が結構上だと思われるらしい。


さらには、ヒゲヅラ――


もとい、数百倍良く言うとダンディな無精髭と筋肉マッチョのせいで、あらゆる層からも大人気。



ベストに腰布という着こなしが、貴方達のトレードマークでワイルドだということは分かります。


見回すとほぼ裸で酒浸りの男達。


――寒くないのでしょうか?



「だいたい何でこんな暑苦しいオッサン達と一緒に行かなければならないんだ!」と心の声で囁いたはずが、大声で言ってしまった。



――はっ、しまった!!


遠くでは、ディオさんの部下である筋肉マッチョな見張り番のビックスとウェッジがこちらを睨んでいる。


ボクの悪いくせなんだ。


えへへへへと愛嬌たっぷりの天使の笑顔を返した。



「アポロ――……お前がぁ……」


気のせいか、ディオさんが涙目だ。



「お前がぁ、オレの大事にしているペガサスを『馬刺しが食べたい!』といって捌いてしまったからだろ。代わりの獣を捕まえるまで肉体労働して償え」


あうぅ――……何も言えないよオジサマ。



確かにあなたのペガサスに乗ればひとっ飛びでここまでこれたのだろうけど――


ボク達の王国『グリーク』から船で海を渡って、港から徒歩でここまで来たのは大変でしたね。



あっ、彼が苛立っていたのはボクのせいでもあったんだ。


とりあえず、笑っておけばボクの愛嬌に世界は許してくれるだろう。


そう思って、なるべくにへらにへらとしてみた。



――それにしても拉致はいけませんよ。


あなたたちに半ば強引に引きずられてきたので、任務の内容までは知らなかったんだ。



酒と獣好きな乱暴者。


目的に向かって真っすぐ進む姿勢は好きなんですけど、遊び心がないのがたまに傷――


と心に思い苦笑いで返す。



「今は世代交代の式典が城の離れにある大聖堂で行われているはずだから、会うのは明日ナ。 今は寝る――」


欲望に忠実、まさに獣様達の鏡ですなぁと別の意味で感心します。



そんな時に放った一言。



「あの城に――……」



――ん!?


「ドラゴンはいないけど――……


――ドラキュラはいるらしい」



――!?



珍しいモノ見たさ。



だからあなたが任務を受けたのですね。



それにしてもドラキュラとは――……



 ―――トクン…トクン―――



  ……――心弾む、心音高まる。



――面白そうだ♪



どうせ酒を呑んだら寝てしまうのでしょう☆


このオジサマ達を置いて、様子を見てこよう♪


そう思いました。




――ボクの名前はアポロ。



【大弓】の王殊を司る、笑顔が眩しく可憐な女性と名高いグリーク王国『第4の王』。


去年は――


妹にしたい女性ナンバーワンの称号を頂いちゃいました♪



――っと、ここまでをまとめますね。


荒くれ者のディオさんが、『第1の王』ゼス様から預かった伝書をドラクロア王へ届けるという重要な任務を承ったそうです。


か弱いボクは些細な理由から脅迫されてしまい、同行せざるを得ない状況となりました。



ところが――……


――あるトラブルがおきたのです。



そして そのトラブルは、ある物語と深く関わってゆくのです。



視線の先には、妖光輝くドラクロア城。



この時は、そんなことなど思ってもみませんでした。



「そろそろ寝るぞ――。 アポロ、見張り頼んだ――」


ディオさんの呑気な声が聞こえてきます。



「はーーい」


珍しくも従順に返事を返した素直なボクの口は、笑っていたと思います。


当然、見張りなんてやるつもりはありませんけど♪



気まぐれすぎたボクのこの行動――……


 ……――ここから、ボクの物語も動き出したんだ。

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