第135話 開会式


「これより、武闘大会を、開催します!」

 雄たけびが上がった。

 武闘大会、開会式である。

「そこで、この町を作った“異世界転生者四天王”様よりお話があります」

『おおおッ!?』

 司会生徒の発言に沸く会場。

 異世界転生者四天王……。恐らくは俺と同郷……かもしれない人たち。一体どんな人なんだろうか。

 果たして、壇上に上ってきたのは。

「デュフフwwwこの景色は何度見てもいいですなぁwww」

「コポォwwwござるぁwww」

「オウフwwwエラスになった気がするwwwドププフォwww」

「ほんそれwwwwフォカヌポウwww」

『デュフフコポォwwwオウフドププフォwwwフォカヌポウwww』

 キモオタ四人組であった。

 チェックのシャツ、何故か背負ってるリュック、眼鏡、お世辞にもかっこいいだなんて言えないような顔面。体型はさまざまだが、健康的な者は誰一人いない。

 そして、にじみ出る陰キャオーラ。自分とある意味同じような人種だ。だが、俺はそこまでひどくはないぞ。流石にwwwを台詞で使うほどではないぞ。

 ……どこからどう見ても完全に完璧なキモオタであった。

 さっきまで目を輝かせていた生徒たちも、完全に幻滅していたようだった。みんな目が死んでいる。

「まーこの町、僕たちが作ったわけなんだけどねwwwコポォwww」

「デュフフwwwチート万歳www」

 ということは。

 あの超近未来的な電車や自動ドア、アスファルトなどの技術を持ち込んだのも彼らということか。この世界の人々があんなものを一から作り出せるはずないし。意匠が完全に向こうのものだったし。

「オウフwwwあの電車のモーターの技術とかwwwコンクリの練成とかwwwボクの、“異世界でもインターネットを使える”チートがなきゃ出来なかったしねwwwおっと、隙あらば自分語りwwwすまぬwwwドププフォwww」

「フォカヌポウwwwもっと褒めてもいいのよんwww」

 wwwが多すぎてむしろ気持ち悪く見えてくるが。というか、この四人組のビジュアルの時点で気持ち悪いのだが。

 そのとき、誰かが叫んだ。

「おい! こいつら本当に四天王なのか!? 見たところただの気持ち悪いおっさんだけど!?」

「そうだそうだ!」

「というか生理的嫌悪がすごい! キモイ!」

 すごい言われ様だが、恐るべきことに全て本当のことだ。弁護のしようがない。

 そこで、デュフフといっていた人が突如神妙な顔になり。

「デュフフ……。じゃあ、証拠を見せよう。田中!」

 田中と呼ばれた男は、「フォカヌポウ!」と叫び、ステージの下手側に手を差し出した。

「“重機召喚”……フォカヌポウ」

 言ったとたん、手を差し向けた方向に、いくつもの、雷を纏った蒼い塊が出現した。

 それは少しずつ削れていき、徐々に形が定まっていき――形が定まってきて、最後に光と雷が消え、色が現れていき――。

「コマツ、PC120-11。フォカヌポウ!」

 なんとそこには立派なショベルカーが!

 生徒から、「おお……」と、驚いたような歓声が上がった。

 でも、なるほどね。本当にこの人たちが、それぞれの持つチートを使って頑張って町を作ったってことはわかった。

 確かに、このくらいの力があって、しかも町を作るなんて功績があれば、四天王と呼ばれてもおかしくはない。キモいけど。

 とりあえず。

 キモオタ四天王の語りは省略する。内容はほとんどあってないようなもんだったし、何より、あったとしても気持ち悪さで伝わらない。あと、このキモオタ四人のことで一話分丸ごと割くわけにもいかない。この時点でキモオタのことに一話の尺を半分使ってるし。

 さて。話を変えよう。


「予選第一試合、チーム・ワンダーランド対チーム……いあいあ? これなんて読むの? ……え? くとぅるふ、ふたぐん? なにそれ意味わかんないし怖いわ……」

 ナレーターの女の子がひどく困惑しているのが聞いて取れる。

 これはあとで知ったことだが、チーム名が異界語で書かれていたそうだ。それを、ナレーターの隣にいたとある教師が無理矢理読んだらしい。なにそれ色々と怖い。

 ちなみに、彼らもそこそこ腕が立つという話。対して、俺たちは謎のダークホースという扱いのようであった。

 入場。すさまじい緊張だ。そして、目の前の対戦相手を見る。

 ……目が、違う。

 以前の彼らと比べると、おかしい。

 寒気を感じた俺は、観客を見渡す。

 うん、普通に相手のチンピラたちを応援している。

 …………おかしい。

 まるで、観客や生徒たちには、目の前の化け物が見えていないかのようだ。

 そして、その対戦相手の四人のうち、一番後ろにいる、学ランを着た触手の化け物。

 巨大な体躯。タコのように丸い頭、口からはイカのような触手を生やし、学ランの袖から出ている手はぬらぬらとした緑色のうろこに覆われており、鉤爪がついている。さらには、背中に大きなコウモリの翼。

 前回もいった彼の特徴。

 ああ、恐ろしい。ああ、おそろしい。ああ――。

「試合、開始です!」

 ああ、宇宙的恐怖コズミックホラー!!

「いあ! いあ! くとぅるふふたぐん!」

「ジュンヤ!」

 瞬間、後頭部に衝撃。

「はっ!」

 振り向くと、ラビの心配そうな顔。

「なにを口走ったんですか……?」

 俺は一瞬だけ洗脳されていたようだ。

「俺にもわからない。助けてくれてありがとう」

 困惑するラビ。それとは裏腹に、俺は察した。


 みんな、洗脳されている。俺たち以外は。


「ほう、お前たちは気がつけなかったようだなぁ、くとぅるふさんの偉大さに……」

 さっき感じた違和感は、そういうことか。

 こいつらも、“くとぅるふさん”――旧支配者クトゥルフに洗脳されている。

 奴のことは、チェシャに教えてもらった。どうやら、強力な洗脳能力を持つらしい。

 観客席からは、声を合わせた呪文が聞こえる。

『いあ! いあ! くとぅるふふたぐん!』

 ここは、クトゥルフの手の中、というわけか……!

 俺は息を呑んで、緑の化け物を睨みつけた。

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