第127話 魔法と魔術と魔道兵器


「新型魔道兵器の戦闘実験!?」

 俺は素っ頓狂な声を上げた。

「そうだよ。武器や防具はこっちで用意してあるからねぇ」

「じゃなくて! どうして俺たちなんですか!?」

「いやぁ、君達、特に黒髪の君……ジュンヤといったっけ? の噂を聞いてねぇ。何でも、あのアレー迷宮の完全踏破を果たしたらしいじゃあないか。それだけの実力者であれば……きっと、いいデータがとれる。そうは思わんかね?」

 寒気がする。とんでもない寒気がする。

 身の危険しか感じない。

「……もしも断ると言ったらどうするのです?」

 ラビの質問に、このマッドサイエンティストは答える。

「その新型魔道兵器で止めようかなぁ。それを倒してからじゃないとここからは出られないように細工もしておいたし」

 なんということだ。これはきつい。

 よくよくみたら、透明なバリアのようなものが建物とこの庭のようなスペースを囲っていた。

 これが結界……。

「仕方ないな。みんな、行くぞ」

 俺たちは溜息を吐いて、リリスの言葉に頷いた。


「ここは僕の研究所なんだ。いつもはここで好き勝手に研究してるんだけどねぇ。教師不足とかで学校に呼び出されたときはびっくりしたよ。早く新しい教員が入ってこないもんかねぇ」

 そういいながら紙にペンで魔法陣を描くコバルト博士。

 ちょっとだけ時間がかかると言うことなので、魔法についての話を聞いてみる。

「そういえば、魔法と魔術ってなにが違うんですか?」

「ああ。今から説明しようか」

 魔法は生物の体内に存在する魔力を、大気中に存在する魔力に混ぜ込み、直接操ることで特定の現象を発生させるものであるのに対し、魔術は魔法陣などの媒体を使用することで、大気中の魔力を間接的に操り特定の現象を発生させるものだとこの博士は話す。

「同じ現象を起こす、たとえば、同じ火を出すということでも、魔法と魔術じゃプロセスがまるで違うんだ。同じ大気中の魔力を操るという行為でも、ねぇ」

 そういってペンのキャップをしめる博士。

「魔法でも、魔術でも、出来ることと出来ないことがある。要するに、一長一短ってことだねぇ」

 博士が魔法陣に触れると、それは光り出す。

「召喚魔法は覚えにくいからねぇ。魔術は術式さえ知っていれば誰にでも使えるから、本当に便利だよ」

 魔法陣の中から、俺たちの愛用している武器や防具が出てくるのを横目に、俺は頷いた。

「でも、それじゃ、魔術って魔法陣を書かなきゃ使えないじゃないですか」

「そうなんだよね。だから一長一短だっていったんだよ。魔法のほうが実戦向きだね」

 なるほど、と俺はまたもや頷いた。

 閑話休題はそこまでにしてそろそろ本題に戻ろうか、と言わんばかりに、彼は言った。

「じゃあ、武器や防具も揃ったことだし、早速はじめようか。ポチっとな」

 博士がボタンを押すと、近くから「ガシャンッ」という音が聞こえる。

「これで動き出したはずだよ。中庭に出てごらん」

 言われたとおり、外に出てみると、そこには巨大な蜘蛛型の機械がガシャガシャと音を立てながら動いていた。

 トラウマが蘇る。あの時は、こいつみたいな何か――それが魔道兵器だった――が、大量殺戮をしてたんだっけ。思い出しただけで吐き気がする。

 でも、あれは中に人間がいたんだよな……。

「すみません、これって……」

「ああ、こいつについての説明がまだだったねぇ。完全に無人だから安心して壊しちゃっていいからねぇ。全力でやってもいいよ。まだスペア機はあるし」

 そう言えば、無人って言ってたっけ。

「完全自律型機械式無人魔道兵器。実現すれば、戦死者が圧倒的に少なくなることだろうねぇ。そのための実験だ。ぜひとも全力でやってくれ」

 俺はこくりと頷き――

「みんな、いくぞッ!」

 身体強化の魔法を早口で唱え、蜘蛛のロボットに飛びかかった。

 そのまま、背中に吊り下げた片手剣を空中で抜き、足に打ちつける。

 足の関節に当たる部分、リンク機構のようになっている二つの棒のうち一本と胴体との接合部。

「足を攻撃するんだ!」

 俺は指示した。

 その部分は構造的に弱くなっているはずだ。そして、足が折れてしまえば、行動不能になる。

「わかった!」

「なら、私が奴をひきつける! そのうちにやれ!」

「ああ!」

 リリスの指示どおり、奴の後ろに回りこみ。

光矢エナジーボルトッ!」

 さっき破壊できなかった足に魔法をぶち込む。だが。

「どうしよう! 魔法がぜんぜん効いてないみたい!」

 アリスが言う。やっぱりか。

 この魔道兵器は魔法に対して強い耐性を持っているらしい。いま撃った魔法もほとんど意味を成していないようだ。

 ならば。

「剣技、へビィスラッシュ!」

 一本の剣に力を集中させ――斬るッ!

 全霊をこめたその斬撃は、見事にその足関節を一刀両断。一つの足が本体から離れた。

 しかし、まだ足は残っている。

 その数、七本。いや、いまラビが槍技を使って叩き折ったのであと六本。

 俺は息を切らしながら、舌打ちをした。

 もう一本、剣があれば。

 いま使っている剣は、迷宮探索の末に入手した素材で作ってもらったもの。以前から使っていた剣は、王都での戦いでなくしてしまったのだ。

 なので、いま俺が持っている剣は一本。

 かつて二刀流で戦っていた俺は、たった一本の剣で戦うということに不慣れであった。

 要するに、本来の実力を出し切れていないことからくる、もやもやとした感じである。

風斬ウインド・スラッシュッ!」

 ノアが叫ぶ。

 空気を操り、遠隔で斬撃を放つ魔法。魔法を使って物理攻撃を発生させる希少な魔法である。

 それは一本の足を破壊する。

 残り、五本。動きが鈍くなってきた。

「――ッ! 危ないッ!」

 リリスのその言葉とともに、はっと気が付く。目の前の脅威。

 俺は後ろに跳び――その瞬間、鼻先を熱線が掠める。

 宙返りして着地。

 荒く息を吐いて、その蜘蛛型の機械を睨みつける。

 なかなか侮れないな……。

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