第115話 再臨の少女
「うわっ、なんだよこいつ! 俺たちがなにをしたってんだ!」
「知りませんよ! どうしましょう!」
草原を駆ける俺たちの後ろを猛スピードで追いかける馬人間的な化け物。
何故こうなったか。
数分前にさかのぼる――。
数分前。
俺たちは馬車に乗っていた。
しかし、馬車の向かう先には、なぜかこの馬人間――ケンタウロスが寝ていた。
「邪魔だ。どいてもらおう」
俺が言って駆け寄り、その巨体を押すと……ケンタウロスはいきなり目を覚ました。
「てめぇ……俺の安眠を妨害すんじゃねぇ……」
そうして怒ったケンタウロスに追いかけられ……今に至る。
……あれ? そう考えると自業自得じゃね?
「完全にジュンヤ君のせいだよね! やばいよ!」
アリスの言う通りだ!
よし、こうなったら!
「みんな、回り込んで馬車に戻ってろ! こいつは俺がどうにかする!」
「大丈夫なの~?」
チェシャが言う。
「大丈夫さ! がんばる!」
「無理はしないでね!」
「ああ!」
アリスの声援を受け、みんなが離脱。
俺は行動を開始する。
すなわち――立ち止まり、ケンタウロスのほうに向き直る。
そして、そのまま滑らかな動きで両膝を地面につき、手を地面に置いて、そこに額を押しつける。
「申し訳ございませんでした――」
これぞ、真の謝罪、DOGEZA!
このくらいで許されるとは思ってもいないが、命以外ではこれが最大なんだ。これで跳ね除けられたら、切腹するしかない!
小学校時代は毎日のようにやっていたせいか無駄に様になっている見事な土下座の体勢を前に、ケンタウロスは足を止めざるを得なかったようだ。
つまり。
「邪魔だから顔を上げてくれぇ……」
そう言うことである。土下座に心打たれたわけではないのは明らかだった。
……数十分後。
「安眠妨害は金輪際するんじゃねぇぞぉ! わかったかぁっ!」
「わかりましたっ! もうしませんっ!」
馬車が来るまで延々と説教してから無事にどこかへ行ったケンタウロスを横目に、俺は息をついた。
「回復ヒール。全く……どんな無茶をすればこんなになるの~?」
「きっとすっごくがんばったんだよ! そうじゃなければ使い古された雑巾みたいに汚れだらけになんてならないもん」
使い古されたボロ雑巾、ねえ。まあ、服はそのくらいに形容されてもおかしくないくらいボロボロになったけどさ。
にしても、美少女二人に看病してもらってる俺って実はものすごく役得じゃねーか? と愚考してしまう俺がいる。
ほかには、三人の幼女が窓際で外を見ていて、白髪の青年が小説を書いていて、どうやって作り上げたのか知らない簡易ハンモックで茶髪の青年が寝ている。
……幼女が増えてないか?
いや、数え間違いかもしれない。いや、たった数人しかいないはずなのに間違えるのもおかしいかもしれないんだけども。
え~と……。
まず、一人目。「遅いな。私が飛んでいったほうが速いぞ」と、人間にはできないことをさらっと言ってる金髪悪魔幼女、リリス。
次、二人目。「まあ、馬車馬も大変なんだよ。これで上手く働かなければ殺されちゃうからね」と、恐ろしいことをさらっと口にする世知辛い元孤児銀髪半魔人ショタロリ、ノア。
さらに、三人目。「なんなら私が飛ばしてあげようかー? いまならただにしたげるけど」と、すばらしき提案をさらっとしてくれるけど超常現象だからやめさせたほうがいい緑髪おしゃれ精霊少女、シルフ。
よし、三人いるな。
うん、やっぱりおかしい。
つまり、一人だけ、知ってるけど知らないはずの子がいるということだ。
すなわち。
「なんでシルフがここにいるんだよ!」
俺は叫んだ。
そういえば、シルフは一度ノアに取り付いた状態で、その直後に声だけで出てきたが、体は出てきていなかったはず。というか、顔も出てきていなかったはずだ。
だから、声と存在は知っていても姿かたちは知らないというわけである。
それはさておき。
「いつの間にここにいたんだ!?」
目の前の、淡い緑色の髪をツーサイドアップに結び、ピンクと白を基調にしたフリル満載の洋服を着た、完膚なきまでにかわいい属性な美幼女――シルフに聞く。
「朝からいたけど、逆に、気がつかなかったの?」
「いたの!?」
そういえばいつもより人数多いなとは思ったけど! 何の伏線も張ってないのに出てくるとか反則過ぎだろうがよいろんな意味で!
「……なんでいるんだ?」
俺は頭を抱えつつ、気になったことを聞く。
「顕現けんげんさせてもらったのよ!」
「……なにそれ?」
どうやら、契約している精霊(この場合はシルフだ)は契約者(この場合はノアである)の魔力によって実体化する事が出来るらしい。
「そういうことよ」
説明を受けた俺は、なるほど、という意味で首を縦に振った。
ハンモックで寝転がっているユウが「まあ、いいんじゃない?」と言う。
アリスは何も言わずに俺のほうを見ている。
チェシャはいつの間にか俺のところを離れて、ユウの絵を描いている。
ラビはまたきゃっきゃうふふと話し始めた幼女たちを真剣な目つきで見つめている。
俺は、遠くからかすかに聞こえるチャイムの音を聞きながら、ため息をついた。
**********
次回予告!
ついに学園都市に到達した純也たち一行! 馬車での旅は終わり、新たなる舞台へ!
しかし、純也は驚愕することになる!
次回、「懐かしき近未来」! きょうは連投! このあとすぐ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます