続いてた旅路
第114話 旅人の日常
馬車がガラガラと音を立てる。
その中にいる俺は、目の前の二人に頭を抱えた。
「だから、ここのxを求めるためには……」
「やり方はわかるんだけど……」
「僕たち、何で出来ないの?」
「それがわかりゃ苦労しないよ!」
ノアとアリスに数学を教えていた。
と、いうのも。
この世界に義務教育なんてものはない。ゆえに、家以外で勉強するということはほとんどない。
特に元捨て子のノアなんかは物事を学ぶ機会がほとんどない。
つまり、気付いたのである。
「これじゃ、学校の授業についていけねーだろ」
そうして、今に至る。
まあ、俺程度の知力でも教えられることは山ほどある。
今まで忘れていたけれど、俺が死ぬ前に使っていた教科書も持ってきていた。
俺は頭が悪いわけではないのだ。良い訳でもないけど。
なお、あとの数人は。
チェシャとラビ、二人で小説やらマンガやらを書いてる。仲がいいね。
ユウ、寝てる。
リリス、索敵中……らしい。空を見てる。
何はともあれ、つかの間の平和であった。
「がんばるぞ~!」
ノアが張り切る。
「何を?」
アリスが聞くと、
「……リリスちゃんと……夜の――」
「やめないか!」
言うほうも言われるほうも恥ずかしくなるようなことを言いそうになったので、やめさせた。
ガチレズショタロリ妹とか、属性の詰め合わせか。
「お、引っかかった」
リリスが言う。
「何がだ?」
俺が聞く。
というか、何が何にひっかかったんだ?
「では、行って来る」
リリスはそう言って、勝手にどこかへ飛んで行った。
「行くってどこにだよ……。というか話を聞いてくれ……」
空を飛んでいくリリスに向かって、俺は静かに呆れた。
「お兄ちゃん、これ、あってる?」
「はいはい。いま、見に行くからね」
「こっちも出来たよー!」
「うん、ちょっと待ってー。一人で同時にいくつもはできないからー」
「わかったー。でも早くしてねー」
「その間、次の問題やってていいから」
「はーい」
「早く僕のを見てよ~」
「はいはい、今行くよ」
こんな感じで二人の勉強を見ていると、音が聞こえた。
――グシュッ、ブシュッ、グシャリ、ベキベキ、ボキッ――。
……この生々しい音はなんだろう。音が気になって採点に集中できない。
しばらくすると、音が止んだ。
「ふう……」
これで落ち着いて答え合わせが出来る……。
そう思った矢先、リリスが帰ってきた。
「あ、おかえ……り……」
俺はショックを受けた。
「ただいま。……ん? みんなして、なに固まってるんだ? ……ああ、これか。さっき私の探索用結界に引っかかってな。今夜は肉だぞ!」
……モザイク修正不回避レベルの生々しい死体を見せられれば、誰でも固まると思う。それを幼女が片手で担いでいるのだから、余計に恐ろしくなる。シュールすぎる。
というか、さっきの音って……。
気付きたくなかった事実にひっそりと目をそむけながら。
「さ、さあ、勉強の続きをしよーか……!」
「そ、そうだね……!」
「……僕らも続きを書きましょ……?」
「ダネー、ガンバロー」
(リリスちゃん……かっこいい……)
それぞれの作業に戻った。
……若干一名、違うことを考えてた人がいたような気はしたが。
俺は皮肉混じりに言った。
「ああああ、学園生活が楽しみだなぁぁぁぁぁ!」
暖かな初春のある日のことであった。
*****Side ???*****
俺は狙撃銃を構える。
ここはとある町のとある廃墟。その屋上。
弾を詰め、ストックを肩に。そして、引き金に指を当てる。
覗いた魔動式スコープが捕らえるのは、肉を片手にワイングラスを傾ける太った男。
その頭に狙いを定め――引き金を引いた。
銃声とともに、ストックが肩を押す。
排莢して、狙撃銃を構えなおしスコープを覗くと、頭から血を流して倒れる太った男が見えた。
満足した俺は、銃を片付け、立ち去る。
いま殺した男は、悪徳貴族。民衆から税金を巻き上げる傍らで、気に食わない者を殺害して回っていたという、悪辣非道の人物であった。
今日の目標ターゲットは無事達成死亡。
目にかかった黒髪が風になびいた。
剣と魔法の世界でただ孤独に悪を撃つ、暗殺者。
それが、その男。
名を、ジュンヤという――。
**********
次回予告!
何かとんでもないものに追いかけられる純也!
彼が一体何をしたというのか!
そして、なんの伏線もなく突然登場する新キャラクター!?
次回「再臨の少女」! 再来週に更新だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます