第105話 旅立ち――What is your righteousness?
「はあぁぁぁぁ……」
帰り道、俺は思いっきりため息を吐いた。
「死ぬかと思ったぜ……」
「そりゃそうだよ……。王様に反論するなんて……」
「心臓が止まるかと思いましたよ……」
「なにあれ、新手の自殺未遂~?」
その言葉に、俺は意見する。
「チェシャ、違うぞ。つい口がすべった結果がこれなんだ。他意はない」
『こんな口のすべり方があってたまるか』
怒られた。なんでだろう。
(うへへへへ……。じゅんやくんかっこいい……。意見を通すためにあんなに勇敢に戦うなんて……。もう……頭がとろけちゃうぅぅ……)
いま一瞬アリスの頭がとろけたような心の声が聞こえたような気がしたが、気のせいのようなので無視。
「だが、これでよかった。これで次に行く場所が決まった」
リリスが口を挟んでくる。確かに、これも狙っていた。大成功。
そんな時。
人とすれ違った。
それだけならなんでもない。
だが、何か、なんともいえない、不穏な気配を感じた。
俺は思わず振り向く。
そうすると、ちょうど彼も振り返ったようで、互いに目が合う。
黒髪、ぼさぼさの髪の毛は俺よりも少しだけ長く、片目が隠れている。
そして、隠れていないもう片方の目はまぎれもない黒。正確に言えば、ほぼ黒にしか見えないこげ茶色。日本人特有の目。
異世界転生者であることは明白だ。しかし、それだけとは思えなかった。
彼の顔は、まるで俺のよう――いや、完全に俺だった。
「ひっ」
背筋が凍る。何故だろうか。
ただ似ているだけ? いや、違う。
直感的に思った。こいつは、俺だ。なら……。
『
「ジュンヤくん、なに言ってるの? 後ろを振り返って……」
「あっ、ああ、な、なんでもないよ」
アリスの言葉で正気を取り戻した。
「お兄ちゃんも疲れているんだよ。何もないところに目を向けてさ」
「そうだね。幻覚ってこともあるだろうし」
ノア? アリス? 一体君らは何を……。
気になってもう一度振り向くと、彼はもういなかった。
どういう、こと、なんだ……?
**********
――その夜。
俺は教会に来ていた。
「なんだ? 自称神のボケ老人」
「その言い方はひどいと思うがのう」
目の前にいる、長い白髭が特徴の老人、冥王神――を自称している男ハデスと話す。
「変わりはないかのう」
「ああ。というか、何で嘘をついた?」
「何のことじゃ?」
「しらばっくれるんじゃねえ。――お前が冥王神だと名乗っていたことだよ」
以前一回死にそうになったとき、夢のなかで、別の冥王神と名乗る男と会話した。確か、彼は「ここは冥界だ」って言ってたし……。
ということは、いま目の前にいるのはただのボケ老人なのだ。まあ、よくよく考えると神で300歳とか若すぎるしな。
「……おぬし、なにやら勘違いをしておるようじゃぞ?」
「なんだと?」
「わしは、偽物じゃ。じゃが、本物でもある」
「……どういうことだ」
老人は告げた。
「わしは、冥王神ハデスから作られた、クローンなのじゃ」
「か、神のクローン!?」
「そうじゃ……――」
彼は語った。
――その昔、大体およそ二千年前、現代の数え方だと西暦1年頃。
冥王神ハデスは多忙だった。
その頃、平行世界とやらが大量に生まれ出てきた頃らしく、そこで生まれ死んでいった人間が世界の数だけ多くなっていったそうだ。
仕事量も増えていき、もはや一人では対処できなくなっていた。
そこで、ハデスは思いついた。
「そうだ! 俺を増やして仕事させればいーじゃん!」
ハデスは早速自分の分身を作った。
「それがいまのわし……もとい、その原型なのじゃ」
「ほえ~。……で、平行世界ってなに?」
「…………平べったく簡単に言うと異世界のことじゃ」
「なんだ今の間は」
「なんでもないです。……そういえば、また運命を修復したらしいのぉ」
そこから先はほぼなにもなく、話を終えて家に戻った。
**********
――三週間後。
王の使者と対談を重ねて、どうにか学校に行くための用意を整えた。
そして、いまから学園都市に向かう乗合馬車に乗り込むところだ。
……とは言っても、客は俺たちだけだそうだから、実質貸切と言っても過言ではないのだが。
「この町とももうお別れか~」
チェシャが独り言のように言う。
「そうだな……」
「いろいろありましたもんね……」
「ジュンヤ君が壊れちゃったりとか」
「ちょっ、それは言わないでくれ!」
そうして俺たちは青空を背にして笑いあった。
「俺たちを忘れないでくれ……」
すっかり忘れられていたカイさんがつぶやく。
そういえば、カイさんたちともここでお別れだ。
「いままで、いろいろとありがとうございました」
「おう。向こうでも達者でな!」
「はい!」
俺とカイさんは拳をあわせた。
「いつか、また会おう」
「はい。男の約束です!」
「ノア、リリス、そろそろ行くぞ!」
「え~。もうちょっとまってよ~」
「そういうときだけ上目遣いで幼女の振りをするんじゃない」
「ふ、振りじゃないもん!」
近くで遊んでいたリリスとノアが駆け寄ってくる。そして、催促をしてくる。
「そうだよ! もう少し遊んでたかった!」
「だが、もう時間なんだ。馬車の中で遊ぼうぜ」
『チッ』
「いま舌打ちしなかったか?」
……気のせいだと信じたい。
「もう少し休んでいたかったな、ノア」
「でももう出発なら仕方ないね……」
「だがあの閉鎖空間では何もできない」
「そうだね……」
「……」
『……チッ!』
「やっぱり気のせいじゃなかった!」
泣きたい気分である。
そんなこんなで。
「学園都市行き、そろそろ出発しますよ~」
御者のおっさんが出発を告げる。
「よろしくお願いします」
「ああ、えらいえらい」
「子供じゃありませんって!」
頭をなでられているアリス。見た目だけなら完全に12歳くらいの子供だからな……。
無論、その胸部は平坦である。
「ジュンヤくん、いますっごく失礼なこと思ったでしょ」
「思ってない思ってないなにも思ってない大丈夫大丈夫だからそんな目でこっち見ないで」
俺たちが全員乗車したことを確認して、馬車は動き出した。
「達者でなー」
「風邪ひかないでねー」
カイさんとファイさんの声が聞こえる。
また会おう。絶対に。
俺は心のなかで言った。
まだ見ぬ世界に思いを馳せながら――。
*****Side ???*****
――ああ。
彼は、呻いていた。痛かった。苦しんだ。
――ああ、
理性と衝動の狭間、狂気を強引にねじ伏せようと足掻く。
――ああッ!
自分を殴り、蹴り、斬り付け、舌を噛み切り、尚、自分を責める。
――ああ、ああ、アアアア、何故だ!
彼は嘆いた。
――正義とはなんだ! 悪とはなんだ!
世界の腐敗を。“正義”を認めぬ世間を。
――何が正義なんだ! 悪を滅ぼすことの何が! 何がいけないんだ!
彼は、嘆き、呻き、呪った。
――悪は、滅ぼすべき……なのにっ!
呪った。呪った。呪った。呪った。呪った。
――ああッ! ああッ! ああッ!
狂気的なまでに。呪う。呪う。呪う。
――何故ッ! 何故ッ! 何故ッ!
死んで、死んで、死んだ。呪い、呪い、呪った。
――悪とは!? 善とは!? もう、何もわからねえよ!
そして、最後に呪う相手――自分の名をつぶやいた。
――イワタニ、ジュンヤ……。
それは、自己嫌悪の末にたどり着いた、もう一つの結末だった。
**********
――I still don’t know the fate.
――To be continue.
**********
――第2部、完――
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