第2部 第3章 王都絶望編

第91話 マシンガンをぶっ放せ


 轟音が鳴り響く!

「なんだ!?」

 空を見上げた俺が叫ぶと、ユウがいつも通りの笑顔で、意味ありげに言った。

「――僕たちは、まだ休めないようだね」

 

 急いで駆け出すと、リリスとノアがいた。

「先についてたか!」

「お、やっと目覚めたか!」

「おはよう、お兄ちゃん」

 俺たちは言葉を交わす。

「そういえば、何で来なかったんだ?」

 聞くと、二人は顔を赤らめた。

「……やめて……恥ずかしい……」

「え~? 教えてくれよ。そういわれると余計に気になるじゃないか」

「…………そ、そういうことは、聞かないで……」

「いったい何があったんだ~?」

「そんなにニヤけるな! ……や、やめろ……あっ、それより、さっきの音!」

 あ、急に話を変えたな、こいつ。

 だが、気になる。

「なんだったんだろうね、さっきのボコーンって音」

「何かが爆発したようだったが……」

 幼女二人が考え込むが、俺にはもうすでに見当がついていた。その上で頭を抱える。

 つまり――

 

「敵襲か……」


 旅先で敵に襲われるのは、ある意味主人公補正なのかもしれない。だとしたらこんな補正なんてほしくなかった。とゆーかスレ○ヤーズかよ。

「とりあえず気になるから行こう」

「うん、そうだね!」

 ひとまず、走って音の出た方向に向かう。


 そこは、惨状だった。

 広場に八本足の蜘蛛のような形をしたロボットのようなものが居て、その足元の、血に濡れた石畳を踏み荒らし、新たな生贄を探している――。

 理不尽な殺人兵器に、ぞっとするほど、吐き気を催すほど、虫唾が走るほど、苛立つ。

 湧く、怒り、怒り、悲しみ、怒り。

 殺されている。理不尽に。何も、していない、善良な、人間が。命が。蹂躙される。

「はぁ……はぁ……っ……」

「どうかしたの?」

 殺さなくては。殺したモノを。

 殺す。

「殺す」

「え?」

 殺す

 殺す

 殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロス殺セ

「え、どうしたの、ジュンヤくん!?」

 熱が、俺を、飲み込み、ああ、あああ、あああああああ、殺した壊せ破壊全てスベテスベテ

「息遣いが荒い……これは……」

「今度はなに~? えっ、ジュンヤ、正気に戻って」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 吠える、俺は、吠えた。血に、飢えた、獣の、ように。

「……一時的に僕――“俺”と同じような事が起こっているようだね」

「いや、それ明らかにまずいやつじゃん!」

「早くどうにかしないと……お兄ちゃん……」

 俺は、拳を握り、牙を剥き、目の前の、蜘蛛のような、殺人者に、サバキを、下す。


「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 死ね、殺戮者。


**********


 純也は叫びながら、八本足のロボットのようなものに向かっていく。

「……一時的に僕――“俺”と同じような事が起こっているようだね」

「ユウさん、つまり、それは……」

「そう、殺戮形態――と言うより、発狂している感じかな」

 ユウとラビがそれについて話す。

「とめないと――」

「その必要はないよ」

 ユウは、止めに出たラビを制止させた。

「だって……」

「まあ、黙って見ていなよ」

「…………」

「大丈夫だから」

「…………はい」

 そんな話がされていても、純也は止まらない。

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 彼は、叫びながら、蜘蛛の形をした兵器に向かっていく。

 跳躍。そのまま、剣を抜き、振り上げ、兵器の足に振り下ろす。


 ズッ……ブシャッ


 足は切れた。機械のようなその兵器から、血が吹き出す。

 純也はその膂力を活用し、さらに高く飛び、勢いをつけて、動きの鈍くなったそれに剣を突きたてる。

 かき回し、破壊する。


 …グシュッ…グジュッ…ブジュッ……


 血が、内臓が、命が、吹き出す。


「死ね……死ねェ……」


 だれもが、感じた。

 ――そこに、黒く、渦巻く、その狂気を。


 そして、純也は見つけた。

 半透明のカプセル。

 そこには、黒いフルフェイスのヘルメットをつけた、人間のような生き物が、横たわっていた。

 彼は、確信した。


(これを……“破壊”すればいい。そうすれば、この“殺戮者”は、“死ぬ”)


 彼は剣を持ち直す。切っ先を下に向けて。

 それを振り下ろそうとしたとき、彼は一瞬、停止した。

 だが、それも一瞬のこと。


 その刃は、あたかも処刑台ギロチンのように、無慈悲に、その生き物の首を貫いた。


「サニティ」


 ユウの発したその呪文は、それもまた無慈悲に、純也という男の意識を目覚めさせた。


**********


平静サニティ

 ユウのその声を聞いて、俺は正気を取り戻した。

「……俺は、いま、何を――」

 聞こうとして、周りを見渡す。

 辺りは、血と臓物にまみれていた。

 そして、仲間たちは、俺のことを怯えた目で見つめていた。

 こんな話し声が聞こえた。

「ね、大丈夫だったでしょ?」

「……こんなのは、見たくありませんでした」

「でも、彼はキミたちを助けたんだよ?」

「……――――ッ――……」

 ラビの悲しげな声。俺は何をしたんだろう。

 恐怖がこみ上げる。自らの知らぬところで、何か、取り返しのつかないことが起きたことへの、恐怖。

 恐る恐る、下を見下ろす。

 そこには、俺の剣が刺さっていた。


 そう、肉塊の上に。


 それも、明らかに、横たわったヒト――よく見たら違うようだが――の首を落とすような形で。


 俺は、全てを察した。

 血に濡れた身体。

 首を切り落とした剣。

 広がる、絶望。


 俺は、殺したんだ。

 人を。


 その行為は、俺が昔恨んだクズそのもの。


 そうなれば、死ぬしかない。


 俺は、腰のかばんからナイフを取り出す。

 それを右手に、逆手持ちで、左の首筋に当てる。

 血の流れ出る感覚。シャツが濡れていく。

 ナイフを握る力を強める。


「やめて!」


 少女の声が聞こえる。この声は――アリスか。

 でも、俺は、もう駄目なんだ。


 人を殺してしまった。


 その罪は、重く、苦しい。


 だから、償うために、死ぬ。


 さようなら。


 もう会わないだろうけど――会えるならば、地獄で、会おう。


 俺は、ナイフで首を思い切り掻っ切った。

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