第1部 第6章 旅立ちの唄 ~また会う日まで~

第67話 彼はさまざまな意味で冒険者たちににらまれていたという……。

 その日マッチョウさんに、三日後旅立つことを告げた。

「今まで、お世話になりました。本当に、ありがとうございました」

「いいさ。俺が好きで面倒見ていたってのもあるしよ。……だが、たまには帰って来いよ。いつでも待ってるから」

「ああ、本当にありがとう!」

 三日後、俺は新たな町に旅立つ。さて……明日は何をしようか。


**********


 夜が明け、朝起きると、まず何が必要かを考えることにした。

(旅に必要なもの……必要なもの…………何が必要なんだ?)

 まずそこからだった。

 以前アレーの町に行ったときは「自分ひとりだから」と多少適当でもよかったのだが、今回はそうも行かない。大人数、しかも長い旅。それを考えると、とても不安になってくる。

(そうだ、冒険者ギルドで経験豊かな先輩たちに教えを乞おう。幸い心当たりもあるし。ついでに朝食も食べなきゃいけないし)

 俺は冒険者ギルドに向かった。


 そこにはやはり、朝食を食べているライケンとフォリッジがいた。ギルド内の女性の目線を集めている。

 ……この町には美人が多い割にイケメンがそんなに多くないからな~。仕方ないか。

 彼らは、俺に気付くと

「おはよう」

「よう、久しぶりだな」

 と、声をかけてきた。俺は、「おはよう。久しぶり」と返す。

 彼らは俺の友人で、少しの間一緒に戦った戦友でもある。

「そういえば、会いたがっていた先輩とか友達には会えたのか?」

「ああ、会えたぜ。びっくりするほど出世してた」

「うん、僕も驚いたよ。若くして王国二十四騎士に選ばれて、さらには自分の町を持っているだなんて!」

 まさか、ファイとカイの昔の友人だったとでも言うのか、彼らは。むしろその事実にこっちがびっくりだよ。

「ちなみに、“王国二十四騎士”って何だ?」

「……そんなことも知らないのか。“二十四騎士”って言うのは、この“魔道王国アレス”の王国騎士団の中でも最強の24人だ。選ばれし騎士たちで、その強さは上級魔族にも匹敵する。全員集まって本気出したら国がいくつかつぶれるな」

 やばい。“魔族”は知らないが、とりあえず本気でやばい奴らだってことはわかった。カイさんとファイさんはそんな方々の一員だったのかよ。ならば、彼らと仲がよかったという彼らは一体何者なんだ?

 まあいいか。そんなこと気にしたところでどうにもならないし、なんとなく気にしないほうがいい気もする。

 さて、話を本題に戻そう。

 俺は今までの話をものすごくかいつまんで説明した。

「いろいろあって、旅に出ることになった?」

「何がどうなってそうなったんだ?」

 仲間が悪魔だったくだりは説明してはいけない気がしたので、完全にカットした。その結果がこれである。

「ま、まあ、いいだろ。そのくらい――」

『じーっ』

「あ、あはははは……」

 笑ってごまかすしかない。いや、その方法しかわからない。俺はコミュ力がそんなに高くない。

……この状況、どうしようか。

 助けを求めてギルドの中を眺めると、カウンターの前に立っているアリスとリリスが見えた。

 俺は、「あ、じゃあ、また今度……」と言って、テーブルを抜け出した。


**********


 数分後。

「アリスちゃん、おはよう」

「ジュンヤくん! ……おはよう」

 俺の挨拶に、顔を赤らめて答えるアリス。昨日のことを引きずっているのか。朝起きたら隣にアリスちゃんが寝ていたのは、驚いたな。うれしくて恥ずかしくていろいろとごちゃごちゃしてた。ああ、思い出したら、こっちまで恥ずかしくなるよ!

 何も言い出せない。……そうだ、機嫌を直せそうな言葉を言ってみよう。

「……きっ、今日も、可愛いね……!」

 アリスはさらに顔を赤くした。いや、冗談じゃなく可愛いな! あ、そうだ。

「そうだ。今日、一緒に買い物行かないか?」

 いい提案だ。旅に行くのに買うものがわからないから、ちょうど良い。ついでに機嫌を直してもらえればいいな。

「おい、お姉ちゃんとラブコメ空間作っているとこ悪いが、これからあたしたちは用事があるんだ。また明日にしてくれ」

 リリス!? いたのか! いや、いたよね。自分が忘れてただけだったな。

 しかし、このあと予定があったのか。それなら仕方ない。また明日に――

「いいよ。一緒にお買い物しよっ」

「え、用事はいいのか?」

「いいの! 一緒に済ましておけばいいだけだから! (ジュンヤ君ともっと一緒にいたいの! ……でも、よくよく考えたらこれって……デーt――)」

 アリスは急に顔を真っ赤に染め上げた。何か考えてた気がしたが、気にしない気にしない。

「あっそ。お姉ちゃん、私は少し離れて歩くから、純也さんと好きなだけいちゃいちゃしてるといいよ。グッドラック」

 親指を立てるリリス。

 すっ、好きなだけっ……いちゃいちゃ……――だとっ……!?

 どういうことだ! 俺たちの仲って実質妹公認なのか!? いや何を言っている俺は! おっ、俺たちは、あくまで友達で! 確かにアリスのことはかわいいし大好きだよ(萌え的な意味で)! でも! 彼女が必ずしも俺が好きだとは限らない……。いや好きだろうってのは認めるけど! あくまで友達的な意味でしょ、それって! そもそも、ただの思わせぶりってこともあるし! ただ自分が勝手に友達だと思ってたかもしれないし! ああああ、ちょっと憂鬱な気分……。あっ、あっ、ちょっ、そういえば、さっきのリリスの台詞、リリスは少し離れて歩くって聞こえたのだが? まさか? 離れて歩くってことは?

 まさか、俺たち、デ――


「どうしたの? 顔がとっても赤いけど」

「それはお互い様だろ……」


 デートだと思われてる!? いやよく考えるとほんとにデートじゃん……。やばっ。自信がどんどんなくなっていく……。


 お互いに顔を赤く染め上げたアリスと俺、それはまるで――


「第三者から見ると、カップルにしか見えないぞ! いいぞもっとやれ! ヒューヒュー」


 リリスに煽られた!

 口をあけて、お互いに顔をあわせる。

(これってカップルの振りをしたほうがいいやつだよな……)

(うん、誰もが望む展開ってやつだね)

 この瞬間だけは心が通じ合った、様な気がした。

 お互いに頷くと、手を握って、歩き始めた。

 俺は叫びたくなった。


 どうしてこうなった!

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