第54話 神託、そして二つ名
しばらくして、俺は宿屋に荷物を取りにいった。もうすでに日が昇って、明るい朝日が大地を照らしている。
全てが変わったような、すがすがしい気分。さっきまでの死にたいとほざいていた自分とはまるで別人のようだ。
途中でライケンと会った。
「……おはよう……おとといはすまなかったな。お前の気持ちも考えずに……」
「いいよ。済んだことだし。こっちこそひどいことを言ったな。ごめん」
お互いに謝りあってから、
「じゃ、仲直りのついでに一緒に飯でも食おうぜ。フォリッジも誘ってさ。今までの憂鬱、全部洗い流しちまおうぜ!」
「……おう!」
ライケンと約束をした。失ったものは取り戻せないから、その分、別のものを作って、笑いあえればいい。それが今の俺の答えだった。
「じゃあ、また後で! 酒場で待ってるからな!」
ライケンはそういって酒場にいった。俺はもうこの町を離れるから、荷物を整理してからいくことにする。
宿屋に着くと、なぜかハデスがくつろいでいた。
「あ、おかえり~」
「ただいま……って、何でいるんだ!?」
「ちょっと伝え忘れてたことがあってのぉ(てへぺろっ☆)」
「(てへぺろっ)じゃねぇよ! で、何があったんですか」
「ああ、今、エンテの町が大変なことになっとるぞ。急がなくてもいいけど、近いうちに何かやばいことが起きそうじゃ。モイライさんに教えてもらってたんじゃ」
モイライとは、運命の女神である。
「いろいろとやばいことになるらしいぞ。『定められた運命が捻じ曲げられてしまうわ。どうしましょう』って言ってたから、その出来事に一番縁が深いお前さんに伝えに来たんじゃよ。一回でも転生してないと、神の姿は見れないし」
「そうなんですか。……ちょっと待て!? ユウでもよかったんじゃねぇか!?」
「彼は伝えずとも自然にかかわってくる。しかし、運命を元に戻せるのはお前しかいないようでな。その出来事に少ししか関わらないものでかつ転生者であることが条件じゃからの」
「はあ……そうですか」
……自殺を止めた理由はそれか……。何? 俺が世界を救わないといけないの? 超絶めんどくさいんですけど。というか、転生者かつ脇役って。なんか悲しいな。
「……残念ながら。がんばりなさい、異世界の脇役勇者さん。応援してるからのう。ヘラさんも応援するって言ってたし」
勇者とかいわれても困るわ~。そんな責任感ないし。あと脇役勇者って何だ。
「大丈夫じゃ。それに、お前さんにとっても勉強になるしのう。新しい出会いの予感もあるぞ……」
……まあいいか。しょうがない。やってやるよ! 運命取り戻してやるよ!
「それでよい。改めて、今こそ立て、運命を取り戻す勇者よ! さあ、旅立ちのときじゃ!!」
しかし、ちょっと聞きたいんだけどさ。さっきから地の文に書かれてる俺の心読んでないか? さっきから一言もしゃべってないぞ、俺。
「すまんのう」
やっぱり。
「すみません、ちょっと用事があるので、また会いましょう。さようなら」
「あ、やっとしゃべったのう。地の文読むのもめんどくさいんじゃぞ」
メタ発言やめろ。
さっさと荷造りをして、ライケンたちの待ってる酒場にいった。
**********
酒場はいつも通り、騒がしかった。喧騒と酒の匂い。
それは、俺が来たことで、一変した。
とたんに静かになり、ひそひそとしゃべり声が聞こえる。
「あれが、“無情なる戦神”か?」「ああ、“二刀の悪魔”ジュンヤだ」「魔法と剣の猛ラッシュ、鬼を殺すほどの力、全てを達観したような闇色の瞳。あれこそが“鬼殺しの鬼”か……」
いろいろな二つ名がついていた。……ついていたはいいんだけど、どれもこれも物騒だな。俺のキャラクター性が曲解されてる。
ああああ、どうしよう、みんなからいろんな種類の視線が……。緊張してきた…………。
ライケンとフォリッジの隣に座ると、彼らのかっこいい顔のおかげもあって、ついには酒場中の全ての視線を集めるまでに至った。
やめて……これ以上見られると卒倒する――!
当然、話そうにも話せない。ある程度の視線ならともかく、こんなに大勢ともなると緊張して何も話せなくなってしまう。
「……二人とも、ちょっと……場所を変えようか」
ありがとう、フォリッジ。
「うん、そうしよう。ここは視線が多すぎる」
俺は同意、ライケンも首肯した。それから、足早に店を去っていった。
ちなみに、そんな意味深な台詞のおかげで、純也達に対する世間の認識がさらにずれていった、というのはまた別の話。
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