幕間 エンテの日常編

戦士の休日(温泉編)

――これは、俺たちの温泉旅行の話である。

 この日、俺は酒場に来ていた。

 いつもの、ギルド内酒場ではなく、路地裏にある小さな酒場である。

「で、何の用だ?」

 ヤンキー風の男に話しかける。以前、俺に戦いを挑んで来たデビシである。

 その時は魔法で痺れさせてそのまま衛兵に差し出したはずだったが、そのあと釈放されたらしい。

 何はともあれ、彼に呼び出されたことは紛れもない事実だ。

 彼はこういった。

「ふふ、ちょっといいところに行かねえか?」

 俺にとってはここも十分いいところなのだが。静かで落ち着くし、料理も美味い。そういう意味では彼に感謝である。

 それもあって、俺は少し興味を持った。

「どういうところだ」

「俺たちにとってはまさに天国だ。最高だ。女の子がいっぱいだぜ……」

「なるほど、いいかもな」

 俺だって男だ。しかも、アリスと仲良くなるまで異性と接点のなかったぼっち系男子である。

 よって、女の子がいっぱいとか言われたらいいところだと思ってしまうのだ。

「しかも、ここってかわいい女の子が多いだろ? ファイさんとかアリスちゃんとか」

 確かにだ。エンテ在住の女子は美少女率が高い。

 ますます興味が湧いた俺は、一番大事な事を聞く。

「で、何処なんだ、それは」

「それは……女湯だ‼」

 Oh yes! 最高じゃあないか!

 ………………って一瞬思った。

 ……どうしようか「いきます」

 ほぼ反射で答えた。


 この世界にも温泉があるらしい。

 しかも、近くに湧いているという。

 明日、そこで女子会が行われるとのことだ。

 銭湯には裸で入る習慣があることから、温泉にも裸で入ることが予想される。

 つまり、そこには、女の子の肌色がいっぱいのパラダイスが広がっているのだ‼

 ……デビシって案外いいやつなのかも知れないな。


**********


 翌日、俺たちは温泉に行った。

 徒歩約半日の長い道のりだったが、前を歩いていた女の子たちを見ていれば辛くもなんともなかった。スケベパワー恐るべし。

 どうにか女の子たちに見つからずに温泉にたどり着けた。


 さあ、お待ちかねのサービスタイムだ!!


 ここは混浴ではない。しかし、男湯と女湯の仕切り板にいくつか穴が開いている。老朽化の影響と見られている。そのおかげで、この温泉は痴漢の巣窟と化しているのだ。

「にしても、いい湯だな~」

「本来の任務忘れたのか?ジュンヤ」

「いいや、忘れてねえさ。でもさ、この温泉気持ち良いんだもん」

「…………確かにな」

「ふぁ~あ、眠くなってきた」

「おい、寝るな、ジュンヤ。それこそがここで覗きができなかった理由ナンバーワンなんだぞ!」

「ハッ!そうだったのか!! 危ねぇ、見れなくなるとこだった……!」

 俺たちは、そんなアホみたいな会話をしながら温泉(露天風呂である)につかって女の子を待ち構えていた。もちろん男湯である。

 そこに、声が聞こえてきた。聞き覚えのある女声だ。

 現れたのは、アリス、ファイ、チェシャの三人だった。

 ヨッシャァァァァァァッ!! キタァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 音を出さないように気をつけて、ガッツポーズ。

 しかし、肝心の一歩が踏み出せなかった。この先には肌色がいっぱいの楽園パラダイスが広がっているというのに…………!


 少女達は、温泉で他愛もないことを駄弁る会を開いた。いわゆる女子会である。参加者はアリス、ファイ、チェシャの三人である。

 その話は見事に恋バナになっていた。

「ねぇねぇ、そのときジュンヤ君が言った言葉、かっこよかったんだよ!」

「へぇ、どんな言葉だったの?」

「『俺は、君を、守り抜くっ!』」

「確かにかっこいいじゃん」

「……言っていなかったような~……」

 アリスの記憶は美化(いや、むしろ改竄かいざん)されているようだ。

 しかし、ファイも負けてはいない。

「でも、あいつもかっこいいこと言っていた気がするのよね」

「へぇ、カイさんが。どんな言葉?」

「『絶対にお前を、取り戻して見せる!』」

「かっこいい!」

「……いや、それどんな状況なの~……」

 申し訳なさそうに突っ込むチェシャには恋人がいない。つまり、居場所をなくしていた。残念な話である。

 そんな悲しい彼女を置いて、惚気話はどんどん加速していく。

「この温泉って、よく見たら仕切りに穴だらけだよね」

「覗かれそうでいやだわ」

「そうだよね。でも、ジュンヤ君になら見られてもいいなって思うんだ」

「「え!?」」

「何でだろ。不思議だなあ」

「……」


「おい、今の聞いたか?」

「え? 何の事?」

「マジか」

 俺の話題が出ていたことはわかった。しかし、少し離れた所から聞いていた為よく聞こえなかった。

 ちなみに、結局女湯を覗くことはできなかった。ただの男子高校生どうていにはまだ早かったようだ。

 しかし、何を言っていたんだ。気になる。でも今は温泉を楽しむとしよう。


 ――1時間程度経った。

「デビシ、もう出ようぜ」

「いや、まだだ。まだ見ていたい」

 どれだけ女の子の裸が好きなんだ、こいつ。俺はのぼせてきたからもう出たいのだが。

 そのとき、少女の声が聞こえてきた。徐々に大きくなっていくそれはまるで魔法の詠唱のようで……

「…………すべてを飲み込み、爆ぜよ!」

 あれぇ、これは中二病かなぁ。明らかに魔法の詠唱じゃん。しかもいろいろとやばそうなやつ。

「行きます! 我が究極の破壊魔法!」

 あ、絶対あれだ。こ○すばのめぐ○んだ。いよいよ危ない。彼女の仲間たちが止めようとしている声も聞こえてきた。

 しかし、その声も空しく、放たれてしまった。


「『爆裂エクスプロージョン』――ッッッ!」


 閃光、そして、暴風。危うく飛ばされそうになる。

「なんだなんだ!? 何が起こった!?」

 はい、爆裂魔法です。この世界にもあったのか……。

 しかし、次の瞬間、大変なことが起こった。


「キャーーーーーー!!」


 なんてことだ、仕切りの壁が吹き飛ばされてしまった。女の子たちの美しき肢体がさらされる。

 ファイさんはおっぱいが大きくて、セクシーさがあふれ出ている。大人の女という感じが出ていて、実にきれいだ。しかし、突然のハプニングに赤面してしまっている。そのセクシーな体と清純な心のギャップがまた堪らない。

 チェシャも実は大きかったようで、いわゆる隠れ巨乳だった。ほとんど無反応だが、それがむしろ彼女らしいとも言える。

 そして、アリスはあまり膨らみが見られない、いわゆる幼女体型だ。しかし、それがなんとも可愛らしくて、興奮する―――。

 ―――って、変態か、俺は!?


 一方、女湯。

「何!? 一体何が起こったの!?」

 露天風呂の中は軽くパニックになっていた。

「そんなに騒いでどうしたの~――ああ、仕切りがぶっ壊れたのね~」

「あんな爆発音に無反応!? ……って、え?仕切りがぶっ壊れ……て…………え……ということは――」

 ファイは、チェシャの無反応っぷりに驚いた後、何かに気付いたようで、おそるおそる男湯との仕切りのほうに顔を向けた。すると……


 そこにあったはずの仕切りが跡形もなく消え去っていた。


 そして、結構見覚えがある男性冒険者二人がまじまじと自分の体を見つめていた。


 ファイは思わず悲鳴を上げた。


「キャーーーーーー!!」


 22行ほど前の悲鳴がそれである。ファイはこう見えて、結構初心うぶなのだ。

「見られた~」

「いや、見られた~じゃないわよ! さすがにもっと羞恥心を持ちなさい!」

 全く恥らわない猫娘、チェシャである。

「そういえば、アリスったら何も言ってないけど、どうかしたの――」

 そこには衝撃的な光景が広がっていた。

「ンっ…あっ……❤ らめぇ……❤ じゅんやくん……これ以上見られたらっ……アンっ…❤ あたひ……イっちゃうのぉ………❤………ふあぁぁぁん…ッ///……気持ちいいのぉ……ッ…❤」

 顔を赤らめてくねくねしながら喘いでいるアリスの姿が。

「ちょっ、好きな人に見られただけで発情するなんて、どういう精神してるの!? この娘は!」


 ん? アリスの様子がおかしいぞ? まるで発情しているような……いや、気のせいか。

 ……でも、なんかファイさんからものすごくやばいオーラが出始めたような……幻覚かなぁ。頭もふらふらしてきたし。

 ……ちょっと洒落にならねぇな。のぼせてきたからかな。早く出ないと。

 そそくさと退散しようとした俺は、ファイに追いかけられた。

「逃げんな、待てコラァーー!」

 猛ダッシュで追いかけてきたファイから逃げようとするが、あたまがふらふらしてにげづらい。いしきがもうろうとして、とちゅうからぜんぶひらがなになってるよ。やばいな。なおさないと。

 しかし、現実は無情だった。


 振り向いたらファイさんのぼいんぼいんと揺れるおっぱいが目の前に……。


 うれしかったが、それが最後の一撃になった。

 巨乳に興奮した俺は、鼻血を噴き出し、そのまま倒れて意識を失ったのだった。


**********


 その後、女性陣に状況を説明した上で(一部脚色しているが)、謝罪した。もっとも、俺はラッキースケベでしかなかったのだが。


 女性陣も、許してくれた。アリスが発情していたこともあったからだろうか。ちなみに、アリス発情事件については伏せられた。アリスはあれで性の目覚めを迎えたとか迎えてないとか言われているが、真相は不明である。


 そして、数日後、冒頭に出てきた酒場に戻る。俺はデビシと話していた。

「まさか、あれで興奮して落ちるとはなぁ。お前の童貞っぷりにはもうあいた口が塞がらねぇな」

「仕方ねえだろ。あの時はのぼせてたんだ」

「しかし、アリスの発情は可愛かったな。ロリコンじゃなくても興奮するわ、あれは」

「え?何だ?」

「何でもねえよ。ほら、もっと飲もうぜ。今日は大物が入ったから奢ってやる」

「あ、あざっす」

――これが、俺が経験したラッキースケベの話である。

「話が変わってねえか?これ」

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