第26話 狂演のプレリュード

「ゆ、行け、ゴブリンたちよ!」

 ぞろぞろと出てくるゴブリンたち。

 まだいたのか……!

 俺たちは慌てて武器を取り出し、構える。

 しかし、ユウは

「つまらん」

 と一言。そして剣を無造作に横に振る。

 振られた剣の一閃が空気を切り裂き、闇を巻き込み、飛んでいく刃と化した。

 半円状に広がる刃は、ユウを取り囲まんとしていた無数のゴブリンたちをすべて切り殺し、さらには洞窟の壁に深い傷をつけた。

 そのとき、ユウは微笑んでいた。しかし、それは普段見せているものではなく、虐殺に悦ぶ悪魔の嗤いだった。

「なっ、何だこいつ! 一人で、しかも一撃でこの数を一掃するとは……! 一体何者なのだ……」

 驚くベルセルク。

「ふっ。他愛もない。つまらないなあ。もっといないのかい。もっと殺してあげる」

 ひぇぇ。怖すぎる。

「そ、そういうことならまだ出してやろう。行け、ゴブリンよ!」

 しかし、現れない。

「どういうことだ。来い、来るんだゴブリンたちよ」

 ゴブリンたちは全く出てこない。その代わり、一匹のゴブリンが出てきた。

 そのゴブリンは、ベルセルクに耳打ちする。

〈ゴブリンたちはもう全員出しました。戦えるものはもう誰もいませアギャァッ〉

 参謀らしきゴブリンは、これも飛ぶ刃に斬られた。

「ふ~ん、もういないのかい。じゃあ、君をなぶり殺すよ。くふふ、こいつなら存分に愉しめそうだ」

 血の海の中、少年の形をした殺戮者ジェノサイダーが、悠然と歩いていく。ゴブリンの王に向かって。

 これから繰り広げられる殺戮劇を考えただけでも、寿命が飛んで行きそうだ。

 今まさに始まろうとしている悪魔の狂演サバトに、俺は背を向けて、思いっきり走って逃げて行った。

 ちなみに、逃げて行ったのは俺が最後だったという。

 この後に起こったことはユウしか知らない。


 翌日、ある冒険者が様子を見に行ったら、そこには狂気を感じさせる、肉塊が転がる血の海で、その肉塊の一つに血で体を汚したユウが気持ちよさげに寝ていたという。

 そして、その近くには、絶望に固まったゴブリンの首が置いてあったという。

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