五月十三日

 朝。庭の世話をしているあいだに客人が食事の支度をしてくれる。にく味噌みそと汁もの、トマトサラダ。美味しい。おかわりして食べる。

 ひと休みののち彼女は出かけていった。今回の宿泊は用事のためでもあるので。土産みやげにできるよう、畑へ出て豆棚の前に立つ。ざるいっぱい、まあ毎日よくれる。野菜のすじりは無心になれて好き。おおきななべでるのも。


 天がだんだん灰色になる。午後から雨との予報があたって、洗濯物を取りこむのと同時に降りだした。昼過ぎて、かの童顔が帰ってくる。昼食。疲れたのか、そのまま午睡ひるねにはまる彼女。

 一時間ほどで、ぼんやり起きる。白湯さゆを出せばひと息に飲んで「ああおいしい」とやわらかな声。それでも帰るぎわにはなって、土産もよろこんで乗せていった。


 夕。弱くはないけれど明るい雨。歩きに出る。

 こんななかでも、つばめは飛ぶ。田の水があふれてみちに流れをつくる。村じゅうがれている。かさを鳴らす音にまぎれて、かえるがひとりギロを弾く。


 道みち、楽しみなのは紫陽花あじさいれ。細かいうすみどりが次第にふくらんで、おとぎの支度をする愛らしさ。

 向こうに氏神うじがみさんをながめて歩く。けぶる山に、しめなわしゅいろの手すりが不思議に浮かんでいる。


 誰もいない、だまった雨の田舎いなかみち。遠くからひびいてくるはげしい川音が、余計にあたりをひっそりさせる。いつか霊獣れいじゅうをはぐくんだ竹林は一面さみしい枯れ色になった。

 びしゃびしゃれる水田の真んなかにはえんぼとけの島がつくられている。村ではどこでもそう。花もけられて大切に。

 対面するようにさいかみ。なんだか切ないような、大切にしたいような気もちになって、暗くなりかかるまでゆっくりする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る