名医のいるゲスーパーマーケット

ちびまるフォイ

予約のできない名医のありがたいお言葉

近くにお医者さんスーパーができたので行ってみた。


「すごい、こんなにお医者さんがたくさん!」


棚にはずらりと医者が並んでいる。

ガラスケースの下には値札と、★が書かれていた。


「あの、この★はなんですか?」


「利用者数です。人気の医者ほど★が多くなるんですよ」


店員に聞いて「ああ」と納得した。

人気の医者はガラスケースに入っていないのがちらほら。


すぐに手に入る医者に診断してもらった。


「これは……もう治療は難しいですね」

「現代医療ではなんとも……」

「簡単に治療できるものじゃないです」


「もう! ヤブ医者ばっかり!!」


安かろう悪かろうという印象だった。

自分の病気が難病であることも知ったうえで診てもらってるのに、

同じことしか言えないのなら診断の意味がない。


「やっぱり、ちゃんとしたお医者さんに診てもらわなくちゃ!!」


医者スーパーで一番人気の医者を探して名前をメモした。

利用者が一番多いだけあって、ガラスケースに入っているのを見たことがない。


ケースに入ってない場合は、値札をレジに持って行って

診断予約することもできるが値札すらない。


「実は……利用者があまりに多いので、予約も制限してるんです」


「そ、そんなに!?」


「次の予約受付時間は1か月後です」


驚いたの半分、期待も半分。

それだけの名医ならきっと治してくれる、と思った。


1か月後、ネットに張り付いて予約受付を待った。

日付が変わり予約開始ボタンが表示されるとすぐに連打した。



『サーバーの通信が切れました』



「ああ、もうこんなときに!!」


医者の予約が多すぎてサイトのサーバーがダウンした。

こうなったら現地に行くしかないとスーパーへダッシュしたが遅かった。


すでにわずかに追加された予約はなくなっていた。


「そんな……また逃したの……」


諦めきれずにネットを探していると、

足元を見るように人気の医者の診察予約券を高値で転売していた。


藁にもすがる思いで購入ボタンを押した。


『この商品は別のお客様に購入されました』


「ちくしょおお!!」


あと一歩のところで他の人にかっさらわれてしまった。

もう私の病気は誰にも直してもらえないのかもしれない。


誰かに話を聞いてほしくて、この顛末をネットに投稿した。


>私も協力します!

>絶対に直してみせます!

>みんなでチケット集めようぜ!


「え……!? みんな……!!」


同情を誘うわけでも、狙ったわけでもない。

なのに、画面の向こう側にいる親切な人が必死に予約券を探してくれた。


あれだけ苦労した名医予約券が届いたのはすぐだった。


「こんなに親切な人達がいるなんて!」


人間のやさしさを心に深く刻んで、

予約していた人気の医者の診断を受けた。


「ふむ……」


「どうですか、先生」


「きっと治りますよ。頑張って治療しましょう」


そのとき、医者の背中にたしかな後光が見えた。

あれだけほかの医者がさじを投げた難病でも治療できる。


やっぱり人気の医者は腕もたしかなんだ。


それから定期的に処方された薬を飲んだり、

生活習慣を改善したり、たまに手術したりした結果、ついに――。




「先生、あの患者さん亡くなったそうですよ」


「あ、やっぱり? まあ、あれは治らんわ」


私は健康体になるどころか、幽霊になっていた。

看護師と医者の話を聞いて成仏できずにいる。


「どうして治るなんて嘘ついたんですか?」


「あはは。考えてもごらんよ。

 治らないと冷たい現実を突きつけるのと、

 治るよと言ってくれる医者はどちらが好まれるかを」


そして、また次の診察が入る。



「きっと治りますよ。頑張って治療しましょうね」


医者は同じセリフを慣れた口調で告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名医のいるゲスーパーマーケット ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ