やはり世界は俺を軸に廻ってくれない
あじ。
廻る世界と廻らない世界
ーーーー世界は俺を軸に廻っているーーーー
いつからか俺、褪坐見零は、そう考えてしまっていた。
学校では、通るたびに女子からは黄色い声を、男子からは尊敬の声を浴びていた。
何を隠そうその時の俺は、容姿端麗、文武両道、絵に書いたような完璧超人だった。
校内一の美少女の彼女
ムードメーカーで場づくりが得意な親友
一緒に笑いあってくれる友達
俺は世間でいう、超リア充だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「褪坐見くん、今日も学校行こっ」
俺を迎えに来た彼女、宵町黄昏は、何を隠そう俺の彼女だ。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
帰ってきたのは、妹の返す気が微塵も感じられない適当な返し。
俺の妹、褪坐見凛は、俺には無愛想だ。だが、恵まれたリア充生活をしている俺に、そのような事は微塵も関係ない。俺は、宵町と一緒に、学校への通学路を歩く。
「今日のHR、席替えするんだって!隣になれたらいいね、褪坐見くん!」
「そうだな」
そんな、いつも通り他愛ない話を、宵町と喋っているとき、悲劇は起こった。
「あっ!あそこの子猫、赤信号渡ってる!助けてあげないと!」
そういって、走り出した黄昏。
だがそこにはーーーー
1台の大型トラックが走っていた。
「危ない!」
俺は、そう言って宵町を庇い、トラックに引かれた。
「褪坐見くん!ねぇ、褪坐見くん!起きてよぉ!私を置いてかないでよぉ!」
そんな声が、遠くから聞こえた気がした。
その時、俺の意識は途切れた。
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「こ、ここは...?」
目が覚めると、俺は白い天井の知らない部屋にいた。起き上がると、いろいろな機械があり、病院だったのを確認できた。しかし、おかしいことが一つあった。
「見舞いの人が、誰もいない...?」
そう、俺が眠っていたベットの周りには、人どころか見舞いの品すらもなかった。どうなってるんだ、これは...
不安が頭をよぎるが、その考えは、医者にかけられた声よってかき消された。
「君、気絶してただけだから、もう退院していいよ、明日からは問題なく、学校に行けるよ」
「そうですか、ありがとうございます」
そして、俺は不安だったことを医者に聞く。
「先生、俺の見舞いに誰か来てくれましたか?」
その質問を聞くと、平然を装ってるのか、それとも当たり前のことなのか、医者は俺に、平然と事実をいう。
「君のお見舞いは、そうだね、妹さんと親御さん以外、『誰一人』来てないよ」
「え...?」
おかしい、これは流石におかしい。
「えっと、誰も来てない、ですか...?えっと、宵町という名の女の子も...?」
「だからそう言ってるじゃないか。ささ、帰宅の準備して、早く帰った帰った。妹さんが凄く心配していたよ」
「えっ、い、妹が...?」
あの凛が...?俺は不思議に思い、早く家に帰って確かめてみようと急いで身支度を済ませ、帰路についた。道中は特に何も無かったため、省かせてもらおう。
「ただいま、凛」
普段は口にしないただいまの言葉。そしてその直後、信じられないことが起こった。
「お、お兄ちゃん、おかえりぃぃぃぃぃぃぃ」
一瞬、何が起こったか脳の整理がつかなかった。妹が、大泣きして俺に抱きついてきたのだ。あの、無愛想な妹の凛が、抱きついてきたのだ。
...えっ?
「お、おう、凛、心配かけたな...」
「もう、お兄ちゃんのばかっ!心配させないでよ、不安だったんだからね...!」
どうやら、妹がついにデレたらしい。って、この自体は、それで収まるはずがないだろう、何だこの異様な事態は。こんなにお兄ちゃん大好きっ子だったか?俺の妹は。
「と、とりあえず、俺は疲れたから寝る。凛、明日からまた、よろしく頼む」
「うんっ!お兄ちゃんのためなら、凛何だってするよ!」
妹におやすみと言うと、妹が元気よくおやすみと、返してくれた。
そして、俺は部屋に戻り、今起きたことを整理してみた。事故が起きても誰もお見舞いに来ない。普段愛想悪い妹が何故か自分のことを超がつくほど慕っている。
前骨折して入院した時には、誰かもわからない先輩から後輩まで、いろんな人がお見舞いに来たのだ。それなのに、今回は0だ。何が起こったのだろうか。しかし、これ以上考えるのは、無駄だと思った。俺には、この問題を解決できる気がしない。とりあえず俺は、今日は眠ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、凜に起こされて、朝食を取った。
妹の作ってくれた朝ごはんは、すごい美味しかった。前は自分で作って食べていたため、妹のごはんを食べたことは無かった。
「凛、料理上手だな、すごいな」
「そ、そんなことないよぉ、えへへ。ありがとっ!お兄ちゃん!」
凛は、満更でもなさそうな笑顔を俺に向けた。やはり、今起きてることはおかしい。妹が可愛すぎる。
「あっ、お兄ちゃん、これ弁当!いっぱい食べてねっ」
「あぁ、ありがとう。残さず全部食べるよ。」
妹の手作り弁当をもらい、俺は学校に向かった。まぁ、ご察しの通り1人でだが。
おかしい、いつもなら宵町が来るはずだ、本当に何が起こっているんだ。俺は未だ謎が多い今の現象の解決策を悩んでいた。
悩んでいたら、いつの間にか学校についていた。いつも通り、校門を通り教室に行った。『誰からも挨拶はされなかった』
教室に入ると、親友の宇佐見に声をかけられた。
「大丈夫か!?褪坐見、外傷とかは何も無いのか!?」
...はっ?こいつ、本当に宇佐見か??おかしすぎる、何が起こってるんだ。あの宇佐見が、ムードメーカーの宇佐見が。
普段俺のことをからかってくる宇佐見が。
俺の『心配』をしている、だと...?
「どうしたんだ?褪坐見、口開けて、そんなにキツかったのか?キツイことあったら、俺に相談してくれよ?」
「あ、あぁ、わかった。」
やはり、これは何かおかしい。宇佐見は、熱でもあるのだろうか...?
ひとまず、一緒に学校に行けなかった彼女、宵町に話しかける。
「宵町、おはよう」
だが、俺に返ってきた返事は、とても残酷で悲惨で、彼女が発したものだと理解し難いものだった。
「キモいよ、褪坐見くん、話しかけないでくれる?」
え...?よ、宵町に嫌われた...?
俺が恐ろしい不安感に襲われ、うごけないでいたその時、急に声が聞こえた。
「ははは、どうだい?褪坐見君、最愛の人に嫌われた気分は」
その声は、何処か懐かしさを感じさせるような声だった。
「お前は一体何者なんだ...?俺の何を知っている。それと、この世界はなんなんだ?」
「まぁ待て、少し落ち着こうか?何者かは諸事情で言えないが、この世界のことは教えることが出来る。今君がいるこの世界は、元いた君の世界とは異なる別の世界、つまり、『パラレルワールド』というものさ。ここから抜け出せるには、ひとつだけ方法がある。君のいた世界をルートAとして、この世界をルートBとしよう。この、ルートBの世界で、君は、ルートAの世界での友人関係に戻る努力をするんだ。無事戻れた暁には、ルートA、元いた君の世界に戻してあげよう。さぁ、今こそ、復縁の時だ。」
「ま、待て!まだ聞き足りないことが...!」
しかし、気づいた時にはあの声は聞こえなくなっていた。
ルートAだと...?なんだそれ、この世界は、元の世界とは違うのか...?しかも復縁って、無理なんじゃないか...?
あらゆる疑問が、俺の脳内を侵食していく。だが、これが神の悪戯だとしたら、俺は、それを受け入れければならない。つまり、この世界で、リア充を手にしなければならない。
「絶対戻ってみせる。元いた世界に、毎日が輝いていた世界に。」
そう、俺は決心した。ここで、俺は考えを改めておくことにしよう。
ーーー世界は俺を軸に廻ってくれないーーー
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