流れる時
くろーばー
流れる時
君は笑う。
君は話す。
昔と何も変わらずに。
「父さん。父さんは、人間じゃないの?」
『父』と呼んだ少年が、隣に座り今まさにサンドイッチにかぶりつこうとしている私の方を見た。私は、サンドイッチをお預けにし、少年を見る。
彼の蜂蜜色をした短い髪を、風が優しく撫でた。
私は、特に隠す事でもないと思い、真実を口にする。
「そうだな。私は、人間ではない。」
「やっぱりそうなんだ。」
少年のエメラルドグリーンの瞳に影がおちる。しかし、それは一瞬で消え失せ、またいつもの笑顔に戻った。
「父さんは、ふつうの人よりたくさんの時間を生きてきたんだよね?」
私は、目を見開いた。それは少し前、少年が寝たと思って気を緩めた瞬間に口から出てしまった言葉だったからだ。
まさか、聞こえていたとは思わなかった。
私は、仕方なくゆっくりと頷く。
すると、少年は嬉しそうに笑い
「ぼく、父さんの昔の話が聞きたい。」
「ロウナがそんな事を言い出すなんて、珍しいな。何かあったのか?」
「な、なにもないよ!あ、あれだよ!ちょっと気になっただけ!」
ロウナが瞳をあっちこっちにせわしなく移動させ、慌てたように言葉を発するのを見て、私の頬が僅かに緩む。
こいつは、昔から嘘をつくのが下手なのだ。
彼が変わっていないのを知り、なんだかほわほわと優しい気持ちになった半面、いらない事を言った奴がいるのだと思うと些か腹が立った。
人間というのモノは、本当に自分に関係のない所へ干渉したがる生き物だと思う。ほっておけば良い物を。
「昔の話か…そうだな、昔はお金はこんな電子のものではなくて、“紙”というものを使っていた。」
私は、ポケットから先程サンドイッチを買った時に使った機械を出して言った。
「“かみ”?」
「ああ、そうだ。植物を主な材料として作ったものだ。」
ロウナは、凄いなぁと目をキラキラさせてこちらを見ている。見たいか?と聞いてみると、元気良く頷いた。それを見て私は懐から布を取り出すと、大事にそっとそれを開いた。その中から1通の手紙が現れる。
「これが“かみ”?」
「ああ。」
「父さんは、どうして“かみ”をもっているの?」
「この布で、時間を止めていたんだよ。そうする事によって、風化を止めていたんだ。」
ロウナは、さわっていい?と聞き、私が頷くのを見るとそれをそっと取った。そして、それをとても慎重にひっくり返したりして眺めると、目を丸くした。
「ロ、ウ、ナ…ぼくと同じなまえだ!」
「ああ、それは“ロウナ”って人からもらった手紙だ。」
「その人はだれ?」
私は目を和ませる。
「私の大切な友だ。」
「父さんの、大切な、ともだち」
ロウナは、噛み締めるように反芻するとふわりと笑い、私の手に“手紙”を戻した。そして、サンドイッチを取ると『いただきます』と挨拶し、美味しそうにそれを頬張った。
私はその様子を見て微笑むと、自身も同じようにサンドイッチを食べた。
いつか話をするかもしれないし、しないかもしれない。
それは今の私には分かり得ないことだが、どちらにせよ私は彼をずっと傍で見守ろう。
大切な友の生まれ変わりを―。
流れる時 くろーばー @cocoa7128
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