第2話 ナビゲーター
「それにしても不思議ですね、体が動くというのは。今までベッド生活でしたから軽く違和感を覚えてしまいますね……ん?」
雅俊は自分の頬をペタペタしたり、軽くジャンプしていると、腕にあるものが付いてるのに気づいた。
「これは……何だろう? まるで腕時計みたいな形をしてるけど……? お? 急に光った」
興味深そうにみていると急に輝きだし、やがて人の形を成すと、声が聞こえた。
『あーあー、マイクテストマイクテスト。聞こえてるかなー? 雅俊くーん?』
「あ、はい。聞こえてますよ過激派さん」
『誰が過激派だ、コラァ! ……まぁ、聞こえてるならいいか』
声の主は転生させた女神(親指サイズ)だった。どうやらこれは女神と連絡が出来るアイテムらしい。
「それよりも過激派さんは結構綺麗な女神なんですね。昔お母さんに読んでもらったライトノベルとか言うのに出てくる女の子そっくりです」
『褒めるのか貶すのかはっきりしてくれない?』
女神は雅俊の発言をジと目で見ながら返す。
因みに女神は綺麗な金髪ロングストレートで透き通るような琥珀色の瞳、体はスラッとしていて見事なまな板のロリであった。
「それで、なにかようですか?」
『実は、さっきの事を上層部に報告して来たんだよね。そうしたら『なんでそんなチートを与えて転生させるんだ!』ってめっちゃキレられて、罰としてあんたを監視することになったのよ』
「大変ですね」
雅俊は他人事ように流す。女神は怒るかと思えば、気にせずに愚痴の続きを話始めた。
『全くだよ。上層部はみんな揃って『可哀想だ、こんな終わりはあんまりだ。だから何でも言うことを叶えてあげなさい』とか言ってた癖にさ!』
どうやら上層部の言った通りに行動したらしい。
だが、いくらなんでも自由にも限度はあるし、恐らくここまでの力を与えてはいけないのが常識前提での自由のつもりだったんだろうなと雅俊は思った。
それと同時に、この女神はかなり単純な性格をしてると分かると、これからが楽しみでならなかった。弄り甲斐があるという意味で。
「まあ、愚痴は後程聞くので、まずここはどこなんですか?」
何も知らない土地を無闇に詮索しないために取り敢えず女神に聞く。
『愚痴って……ここは昔、ソーレナ伯爵のお屋敷らしいよ』
「らしい?」
『そう、住民に重い税を掛けて、そのお金で自分達がのうのう暮らしてるがバレて、反乱が起きてそのまま殺されたのよ』
「なんですかそのテンプレの悪役みたいな伯爵は……というか、よく知ってますね」
物騒なことをあっさり言う女神に対して雅俊は軽く引いていた。
それと、自分の中で、段々女神としてのイメージが薄れていくのを感じた。
『まあ、一応この世界は私の管轄にあるしね、大きな存在が死ぬと何となくわかるんだよね』
「へぇ、そうなんですか」
女神の付け足しが余りにもどうでもよくて軽く流す雅俊。
『そうなの。あー、あと私はあんたのナビゲーター見たいな存在だと思って。力の使い方とかわからないと困るでしょ?』
確かに。上層部の女神があそこまで言うんだし、ちから加減とか間違えたら世界を大きく傾けるほどなんだろうなぁ……。面倒ごとに巻き込まれるのはゴメンだし、居てくれた方が正直助かる。
「そうですね、お願いします」
『任されましたよ。はあ、面倒臭い……』
女神は、頭を掻きながら、またコイツと関わることになるのかと思うと嫌気で溜め息をついた。
「取り敢えず今後の方針なんですけど、どこに行ったらいいですかね?」
『んなもん自分で探せ!』
初手からナビゲーター失格発言してますね、この女神様は。まあ、最初くらいは自分で探すか……。
「わかりました。最初くらいは自分で決めます。だけど、この世界のあり方とか知識については教えてくださいね? ナビゲーターなんですから」
『はいはい、わかってますよ』
雅俊が頼むと、女神は面倒臭そうに適当に返した。
さっき放棄したばかりなの自覚してるのかな、この神様は?まあ、気にするだけ無駄か。
そう思いながら雅俊は屋敷を出た。
――――
屋敷を出て数分後、辺り一面は完全に廃墟と化していた。
雅俊はキョロキョロしていると、女神に声をかけられた。
『さて、話をしますかね』
「何のですか?」
『何って、この世界の事に決まってるでしょ?』
女神はなにを当たり前の事を聞くと言わんばかり声で雅俊の疑問を返す。
「そうでしたね」
『「そうでしたね」じゃないわ! ……おっと、話がそれるところだった。危ない危ない……。さて、まず現在地だけど、ここは《アースハルト大陸》のミ《シェルド王国》の《ナマタント街》というと比較的緑豊かな街だった。だったって言うのは、昔は活気が良かったんだけど、先程に言ったソーレナ伯爵の税収によって寂れてしまった憐れな街だよ』
ちょっと言い方……、もう少しオブラートに話してほしかったかな。
「と言われましても……」
雅俊は困ったように頬をポリポリ掻く。
『まあ、分からないよね、知らない土地の名前聞いてもピンと来ないのは私も分かるから。それで続きを話すよ。この世界は五つの大陸でそれぞれの種族が治めているの』
「それぞれの種族?」
雅俊はキョトンとしながら女神に聞く。
『うん、ファンタジー系を読み聞かされてるなら分かると思うよ?まず東の大陸――《大樹海》を治める
「――まさか遠回しに僕にやれって言おうとしてませんよね?」
『ギクッ!』
どうやら図星らしい。
親指サイズとはいえ汗がタラタラと流れ落ちてるのがよく分かる。
それにしても
「あとで説明してくれれば深く追求しませんので、話の続きをお願いします」
「あ、うん……。次はこの世界の魔法について話すよ」
「おお、魔法ですか」
待ってました!
『そういうところは子供らしい反応するのね。この世界の魔法は大まかに分けて六つの魔法が存在する。物を燃やしたり温めたりする『火属性』、冷やしたり、大地を潤す『水属性』、新たな命を育み、命の源である『土属性』、大空を轟かせ、たちまち自然界に牙を剥く『雷属性』、そして今言ったこれらの魔法に該当しない属性を『無属性』と言うらしいね。まあ、普通にこの五つの属性があるって先ずは覚えてくれればいいよ』
女神は取り敢えずといった感じで説明をした。
「なんか厨二臭い説明ですね。女神様はそういうお年頃なんですか?」
「何故そうなるのよ!? 私は純粋でピュアな乙女よ! それに私は書いてあったことをそのまま読んだだけよ!」
うわぁ……、一番ダメなパターンじゃん……。この先が思いやられるなぁ……と雅俊は内心呆れながら思った。
「それで魔法は教えてくれるんですか?」
『最低限のはね、初っぱなから大魔法なんてぶっぱなしたら確実にハード人生まっしぐらよ』
うっ、それは勘弁して欲しいなぁ……。
「では、初歩でいいので教えて下さい」
『はいはい、元からそのつもりだよ。でも、その前に宿を探した方がいいんじゃない? 不老不死とは言え、空腹は来るものだしね』
そういえばそうか、ずっと病室育ちだったから完全に失念してたよ。
「確かに空腹は不味いかもしれませんね。なら宿を探して、明日に魔法を教えて貰うことにします」
『そうしてくれ』
こうして転生吸血鬼の雅俊は宿を探すことになる。――が、今の雅俊は知るよしも無かった。自分がこれからハードな日常に巻き込まれることに。
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