宝石箱

ある家庭で、小さな誕生日会が催されていました。

「お誕生日おめでとう」

そういってお母さんは娘に古びた木箱を差し出しました。

娘はびっくりしてしまいます。それが何か知っていたからです。

「…本当にいいの?」

娘は思わず尋ねてしまいます。

「お母さんも、おばあちゃんからこうして貰ったのよ。だから次はあなたの番。大切にしてね」

お母さんがそう言ってもう一度うなずくと、娘は促されるまま木箱を受け取り、

ちょっとした装飾が施されたそれをゆっくりと開けました。

中には小ぶりな宝石が鈍い光を放つ指輪、大きな真珠が据えられたブローチ、繊細なチェーンのネックレス。

それはお母さんの宝石箱だったのでした。

娘は今まで間近で見たことがなかった煌びやかなアクセサリーを眺め、

それから…それから…?

娘は宝石箱の主と目が合い、びっくりして固まってしまいました。

「あら、あなたが新しい持ち主?ちんちくりんだけど顔立ちは合格ね」

黒い艶やかなドレスに身を包んだ妖精は、ふん、と鼻を鳴らし娘を品定めします。

ちら、とお母さんを見るとこの失礼な妖精が見えていないようでした。

「初めまして、あなたはこの箱の妖精さん?」

娘はお母さんに訝しまれないようにこっそりと挨拶をします。

「そうよ。これからあなたを宝石達に釣り合うような立派なレディにしてあげる」

妖精はスカートの端をつまんで小さくお辞儀。

「よろしくね。お嬢さん」

妖精はそう締めると、娘に見えないようにお母さんにウインクしました。

お母さんは声に出さず、口だけを動かしました。

「よろしくね。お嬢さん」

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