間違いなど 正さずとも

第1話

決して、純粋な恋愛ではなかった。

それでも、私は貴女が好きだった。


間違ったことだと 理解していた。

それでも、貴方を好いていたかった。


「今日は 空が泣いているね」


鈴のような声で そんなことを言うから。


「貴女が笑っていればいいよ」


そんな、半分 望みのような気持ちが口から漏れ出たのだ。



沢山の傘が咲いていた。

雨粒が 跳ね返って 仄暗い混凝土へ落ちる。


雨は あまり好きではなかった。

人と 人との 距離が必然的に出来てしまうから。


「雨というのは、少しばかり騒がしい」


ぽつり 呟いた言葉に、貴女はくすくすと笑った。


「それが、いいんじゃないの」


どこか遠くを見つめて貴女は言った。


綺麗に整った 端正な横顔が、いつもより遠く感じた。


「…ねぇ」


長い睫毛が、伏せられている。

背徳感を感じるその瞳が、何よりも好きだった。


「雨は、街を彩ると思うの」


「詩人にでもなる気かしら」


揶揄ってやったつもりだったのに、いいかもね、なんて言われて 何も返せなくなった。


そんな私の気持ちを見透かしているように、貴女は悪戯っぽく微笑む。


貴女には 当分 敵いそうにない。

…この恋も叶いそうにないけれど。





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間違いなど 正さずとも @nemuru_

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