第39話 そこにある幸せ

界人は常々から気になっていたことがあった。


「フォックスって休日は何をしてるんですか? 」


人気のない格納庫で界人とレオンが並んで会話をしている。特に差し迫った任務も無いため、全員が出払っておりギアだけがおいてある状態で声は中々に響いている。


「さあな、恋人とはいえお互いパイロットだからあまり日常にまで踏み込んでいなかったからな」


いかにもレオンらしい答えなのだが、界人にはその返事が一番困るものである。


「う〜ん、何を返せば良いんでしょうね」


「何をだ? 」


腕を組んで考える界人に対し、レオンはなんの事かいまいち飲み込めていないのか渋い顔をしている。


「いや、隊長って結構任務以外にも色々気を使ってくれるじゃないですか」


「昔から世話焼きだからな、ある意味あいつらしいがそれがどうかしたのか? 」


「いや、クルー全員でお返ししたいんですけど趣味とか好みが一切分からなくて」


「昔からそうだよ」と図面と格闘していたユリがレイヴンの影から界人たちの方を見る。


「うぉっ、そんなところにいたのか」


「何よ、だって作業場の机じゃ描きにくいんだもん」


作業を止めて、界人の横にしゃがむユリ。さっさと思いを打ち明ければ早いものを、とレオンは思わず笑いそうになった。


「本人に聞けば? 界人が聞く分には怪しまないって」


「本気で言ってるのか? それ」


「どうかなぁ? 」とにやけるユリ。レオンもなぜかクスクスと笑いだした。


「……… やっぱり僕ですか」


「あぁ、勿論」


口を押さえたままレオンが笑いを噛み殺しながら答える。


「分かりました、行ってきます」


格納庫を出ていく界人の背中を眺めつつ、ユリがレオンに微笑んだ。


「さてー、ドレスはどこで借りますか? 」


「そういうのは分からなくてな、ユリが決めてくれないか? 」


「分かりました! あ、じゃあいっそフォックスの分と会場まで探してしまいましょうよ」


「いいさ、だがあいつは『また余計なことを』とか言ってくるんだろうな」


「きっと照れてるんですよぉ、フォックスの事だし」


「だといいな」


ユリがレオンの手を引く。まるで親子のように、二人は並んで歩き出した。





──────────────────────

「こんなところにいたんですか」


「なんだ、悪いか?」


折角の休日だというのにまたしても屋上の灰皿前でタバコを吸っていた。


「良いも悪いも、勿体無いじゃないですか」


「なるほど、遊ばないのかと聞きたいわけだ」


「え、いや…… 」と焦る界人に「そう固い顔すんなって」とフォックスが肩に手を回した。


「軍人時代の5年間で遊び飽きるほど遊んだんだよ。申し訳ないがな」


灰皿にタバコを押し付け横のベンチに座り込むフォックス。界人の肩を強引に引き付け、自分の隣に座らせた。


「さて、今日は何を聞きに来た? 趣味か? 」


「なんで分かるんですか…… 」


「顔に出すぎなんだよお前は」


更にきつく肩を抱き寄せるフォックスの指に香港での戦闘前にはなかった指輪があることに気付いた。


「左手の薬指? え、香港の時はまだ結婚してなかったんですか!? 」


「あん? 婚約者だって言ってなかったか? 」


「知りません!! 」


「それは悪かった」と悪びれる事もなくフォックスが流そうとするのを界人は許さなかった。


「じゃあ式は挙げるんですか? 」


「知らねぇよ、レオンかユリに聞いてみろ」


急いでユリの端末に電話をかけてみるも、いつもならワンコール以内に出るはずが繋がらない。


「………はめられた、ダメだなぁ」


ハッハッハ……… とフォックスが大笑いする。すると突然フォックスの端末が鳴り出す。着信音はなぜか古い曲だった。


「おう俺だ…… は? 式場が決まった? タキシードォ!? 」


先程の会話の流れから、界人はこれから何が起こるかを理解し、そして肩を落とした。


「…… 分かった、今から行くから」


電話を切り、フォックスが界人を見る。


「お出掛けの時間らしい。すまんな」

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