第36話 決別 その一
燃え上がる研究所の側で向かい合う二機。勿論、依然として界人が不利の状況が続いている。
「こいつ、無茶苦茶しやがるっ! 」
所属も世代も判別不能なそれは何かに憑かれたかのようにがむしゃらな突進をつづけている。ダッシュホバーの有無と相まって界人はいよいよ身動きが取りづらくなっていく。
「やりづらい、クソッ!! 」
回避しようとすればするほど敵の動きの異常さがましていく。敵が距離を置いたため、界人は武器を構える猶予が与えられた。
「覚悟を決める…… 『私情を捨てて感情を捨てず』、難しいな」
フォックスの言葉を思い出し、ため息混じりに苦笑する。腰に装着した銃剣を弾の切れた小銃に装着してレイヴンが構えると、敵も突進の体勢を取る。
「敵を見ない、殺気を読む…… ダメだ、あの人の言葉は難し過ぎる」
またも口元が綻ほころぶ界人。しかしその笑みは先程の苦笑とは違い晴れやかである。
「だけどなぁ…… 」
敵が前進を始めると同時に界人も前進する。
「こっちにはやるべき事が残ってるんだ! そう簡単にやれるほど安い命じゃない!! 」
下から掬い上げる様に銃を突き出す。当然敵機はのけ反りながら回避して、再び体勢を整えた。
「これは読めないよなぁ!! 」
振り上げた小銃の銃床で殴り付けると、敵機は体勢を崩されその場で転倒した。しかし続いて突き出した銃剣の突きは装甲に阻まれ、銃剣も刃の中央から二つに折れてしまった。
「クソッ、ついてない…… 」
当然のごとく敵の反撃をもらい倒れ込むレイヴン、その衝撃で界人は後頭部を強打した。
「ガッ!?…… 」
少しずつ白んでいく視界にうっすらとだけ、敵がナイフを振り上げたのが見える。この状況でもまだ、界人は意識を保とうとする。
「ユ…… リ…… 」
その時、突然の轟音と共に敵のギアが吹き飛んだ。なんとか意識を取り戻して界人が画面に目を凝らすと、そこにはあり得ない光景が写っていた。
「隊長! 」
全身黒単一色塗りのそのギアには見覚えがあった、というよりはそれしかあり得なかった。
「隊長! 今すぐ逃げて…… 」
「……先に行け」
フォックスの声色は明らかにいつもと違った。訓練の時も、まして実戦ですら聞いたことがない種類の声である。その裏にとてつもない怒りが含まれていることを界人は察した。
「しかしあれは!…… 」
「行け! ここから先は見せたくない」
その一言で、界人はかのギアのパイロットとフォックスの間にある何か触れてはいけないものを肌で理解した。フォックスの放つ尋常ならざる空気と、敵の異常なまでの戦い方に界人は恐怖した。
「了解です。お気をつけて」
界人は急いでレイヴンの体勢を立て直し、その場を離れた。
「……さて、界人あいつも行ってくれたしゆっくり話でもしようか」
ゼロが手に持っていた太刀を地面に突き刺し直立する。すると何故か敵機も動きを止めた。
「ロバート、お前は何故そこまでするのかね? 『そもそも向いていない』と言っただろうによ」
ロバートは答えない。いささかの静寂を挟んでフォックスはさらに続けた。
「そんな体で勝てると思ったのか?大体ずっと言ってたはずだぜ、『薬にだけは溺れるな』と」
「お前の、お前の話はもう聞かない。私は……… アアアァァァァ!! 」
ロバートは狂ったようにフォックスに襲いかかった。
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