第12話 本当の始まり
サンパウロの戦闘から二日後、フォックスたちはジュネーブにあるユニバーサル・ファクトリー本社にいた。
「会長、フォックス以下二名参りました」
「おう、入りたまえ」
フォックスたちが入った先は会議室である。ユニバーサル・ファクトリーの重役たちがデスクの列の真ん中に三人は並べられた。向かい合う立ち位置で一番奥の席に座るのは、フォックスたちに通信を送ってくる髭の男性である。
「君と実際に会うのは初めてかな?ユリ君」
「は、はい」
流石のユリも緊張するらしい。対してレオンはさして驚く様子も見せなかった。男性はゆっくりとレオンの方に顔を向ける。
「そしてようこそ『ユニバーサル・ファクトリー』へ、歓迎するよレオン=アリシア君私の名はアルフレッド=ゴードンという。今後ともよしなに頼むよ? 」
軍人としての癖なのか、立ち上がって10度敬礼を行うレオン。フォックスは何も言わずに二人を見守る。
「さて、挨拶はこの辺にしておいて本題に移ろうか」
気付けばアルフレッド会長を含め、三人を除く全員の表情が変わった。真剣な話でも始まるのかとフォックスは軽く身構える。
「それほど重大な話でもない。この度の君らの活動を見させてもらったが、正直動きにくかったろう? 」
「ええ、所属を隠す必要があったため若干のやりづらさはありました」
ここは正直に意見を述べるべきと判断し、フォックスは率直に心の内を吐露することにした。すると突然、アルフレッドの顔から緊張が消え失せた。
「やはりな……いや、それならば良いのだ。今回の会議は『君らの今後』の話だからな」
ここに来てやらかしたとフォックスは気付いた。背筋が凍るような緊張と共に、冷や汗が止まらない。
「では役員諸君、『Hive』結成に異論がある者は手を挙げなさい」
ユリもレオンも、フォックスですら何がどうなっているのかが理解できなかった。
「会長、『Hive』とは? 」
「この度、君らの任務遂行への効率を考えて新たに組織を作ることになった。フォックス君にはそこでパイロットチーフをしてもらおうと思っているのだ」
「はぁ…… 」
ここに来て部活が増えるのはどうかとフォックスは考えた。効率は上がるが、当然の如くリスクは上昇することとなる。
「つまり、現在進行中の計画に何の関係もない一般人を巻き込めと? 」
「まあ待て、最後まで話を聞きなさい」
アルフレッドの目に一案があることを感じとり、フォックスは黙り込んだ。
「今回、パイロット試験に合格して訓練を受けている70名の大半がユリ君と同じ境遇である」
ユリの表情が暗くなる。余計な事を思い出したのだろうか。気が付いたのかアルフレッドがフォックスの目をちらりと見る。
「それに新人の訓練はロクサスが面倒を見ておる、悪くはなかろう? 」
「……了解しました。承ります」
満足そうな目で頷くアルフレッド。その後レオンとユリの立場に関する詳細が伝えられ、会議は終了となった。
「フォックス君、少し良いかね? 」
ユリとレオンに退室を促し、広い会議室の端の席でアルフレッドと向かい合う。
「これを見てくれ」
アルフレッドが封筒を手渡す。中には大量の資料が綴じられていた。
「これは? 」
「新人たちのデータだよ。実は、君のデータを元にした第五世代の量産試作機が二つ完成してね」
「つまるところ、第五世代を乗りこなせそうなパイロットを育てろ、と? 」
「あぁ、整備メンバーについては最高の環境を整えてある。出来るかね? 」
完全な決定をするのは早計だと判断し、フォックスは席を立つ。
「検討しておきます。あの機体は人を選びますからね」
これからはまた違った意味で忙しくなると確信しつつ、フォックスは会議室を後にした。
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人物紹介:レオン=アリシア
元アメリカ陸軍大佐。フォックスとの再会により自身の生き方を変えて現在に至る。
フォックスいわく「男だったら勝てない」というほどに格闘が強い。40歳にして空手六段、柔道五段で、なおかつ趣味でサンボやCQCを習得している。
ギアの操縦技術自体はそれほど高くはないが、持ち前のセンスで乗り切ってきた。軍人時代のスコアは20年で81機
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