第1話 フードを被った女性

いつもと変わらない昼下がり、天気も良好で気持ちのいい一日だ。

「母さん、買い物に出かけるの?」

「あなたも散歩に行くのね。気をつけて行くのよ」

「分かった」

母との会話をした後、少年は散歩に出かけた。

少年は休日の時いつも街中まちなかを散歩している。トランの街は人の出入りが多いため、全く飽きることがない。


今日の街も、旅をしている冒険者や商売をやりに来た商人などで人が溢れている。


ウキウキしながら歩いていると、空が曇り始めポツポツと雨が降り始めた。

「急いで帰らないと」

少年は手で雨を防ぎながら家の方へ向かって走った。


「少し濡れちゃったかな」

少年は家の中に入り、タオルで濡れたところを拭き取った。

一息ついた時ドアの開く音がした。母が帰ってきたのだ。

少年はドアの方を向くと母の後に、知らない人が居た。その人はローブを身に着けフードを被っていて顔は見えなかった。


「母さん、その人は?」

母はタオルで服を拭きながら質問に答えた。

「旅をしている方よ、雨の中困っていたから家に誘ったのよ。今日は止みそうにないから泊まらせてあげようと思って」

母は答えると、旅人に新しいタオルを渡した。


旅人はタオルを受け取り拭き終わるとフードを取った。

まず少年の目に入ったのは綺麗な銀髪、そして左目は透きとおるような水色で、右の目は綺麗に輝く黄色の目だった。少年は外見から女性だと把握した。


「いきなりでごめんね。私の名前はルナ・メンシス。ルナと呼んでください。」

ルナという女性は軽く謝罪をした後に少し微笑みながら名前を名乗った。


それに続いて少年も自己紹介始めた。

「僕はソール・ケーラと言います」

ソールの年齢は13歳で黒い髪に茶色い目の男の子だ。

ソールは急な状況を心の中で抑えつつ自己紹介を終えた。


するとそこに母が温かいホットミルクをルナとソールに渡しソファで休ませた。ソールはミルクを一口飲んだあとルナに質問をした。


「ルナさんの首に掛かっている物は何ですか?初めて見ました」

ソールはルナが身に付けていたアイテムが気になっていた。


「これは、ヘッドホンといって両方の耳に付ける物だよ。耳がふさがれて音を遮断する事が出来るんだよ」

そういってルナはソールに近づいてヘッドホンを付けてあげた。


一時してソールはヘッドホンを外しルナに返した。

「お...驚きました。本当に何も聴こえなくなるなんて...」

初めて見るアイテムに驚いてる所に母がやってきた。


「そろそろ夕食にしましょうか」

そういって料理をテーブルに並べ始め、食事を始めた。


『ごちそうさまでした』

食事を終えてそのあとは順にお風呂も済ませた。


「すみません、食事にお風呂まで入らせてもらって...」

ルナはソールの母に謝罪と感謝の言葉を伝えた。母は優しく微笑んだあとキッチンへ行き片付けを始めた。


ルナは用意してくれた二階の部屋の窓から外を眺めていた。既に雨はやんでいた。そこへソールがやってくる。

「少し気になってたんですけど、ルナさん旅しているのに武器とか持ってないんですか?」

本来ならば旅人は道中でモンスターと遭遇する危険もあるため何らかの武器を所持している。しかし、ルナはローブにヘッドホンに少量のアイテムしか持っていなかったのだ。


「確かに、武器を持ってないと危ないかもしれないけど、私あまり戦闘が得意じゃ無いから同じ目的地の剣士や魔法使いの方と一緒に移動しているの」

ソールはその答えにあまり納得出来なかった。しかしその事に関して口を挟まなかった。


ソールは眠気がしてルナにおやすみと言ったあと寝室へ戻っていった。

ルナはもう一度外を眺めた。

「今日は月が綺麗だな...」

雨が止んだあとに見えた月は、綺麗な満月だった。

そういってベッドに入り眠りについた。


さらに外は黒くなる深夜。眠っていたソールは窓が開く音が聞こえてベッドから体を起こした。曖昧ではあったがルナが寝ていた部屋からだと思い部屋を覗くと、窓が開きベッドにルナの姿は無かった。


ソールはルナの事が気になり静かにドアを開け、静寂で真っ暗な街の中を一人で探しに出かけた…

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