第8話 『難民』その7

 キューさんは、ぼくの右側に座りました。


「あんた、ロボットなのに、人間の味方をしたいと言うのか?」


 巨大本屋さんの、店長代理さんが尋ねてきました。


「あい。そうです。」


「うらみって、なんだい?」


「それは、秘密です。あい。」


 店長代理さんは、うさんくさそうに、キューさんを見つめました。


 お店では、けっして見せない表情です。


「ふうん。まあ、でも、主様がよいとおっしゃるならば、まあ、よい。本日からは君を『名誉人間』として、認定します。これ認定バッジ。では、主様から贈呈してください。」


「なんで、ぼくからなの?」


「主様だからでしょ。」


「はあ・・・いつの間にそう決まったのかなあ。」


 こういう場合、抵抗すると危険が伴うのは、経験上あきらかです。


「じゃあ、キューさん、これを贈呈します。」


「ども。」


 キューさんは、意外に嬉しそうに、うやうやしく、バッジを受け取りました。


「ときに主様、あなたにも、次のお仕事がございますぞ。」


「は?」


「主様には、偉大なる『神様』の居場所を探す義務が生じます。」


「え?」


「各階の主様が、『神様』の居場所を探しているのですが、行方がわかりません。この巨大モールのどこかにおわすことは、間違いないのですが、ここ3年間、まったく音信不通なのです。」


「あの・・・神様って、いったい、どなた、なのでしょうか?」


「決まっています。この土地の地主様です。しかし、この土地は、政府筋の会社に、まあ信じられない位の安い値段で、強制収容されたのです。安いって、あなた、そりゃあもう、あなた、大阪近辺の標準的な一般の土地と家、一軒分に、らーめん10杯プラスぐらいだったらしいです。地主様は、それでおっぽり出され、隣の小さなアパートの一部屋だけ、無償貸与されたそうです。毎日、このモール内で、泣いて暮らしておられました。」


「ああ、あの御老人かあ・・・知ってる。」


「そうでしょうとも。」


「しかし、そりゃあ、ひどい話だなあ!」


 ぼくは、さすがに憤慨しました。


「ひどいです。しかし、そうした憂き目に会っている人間は、実際に少なくないのです。みな、ロボットどもの策略です。」


「ヒドイね。よくわかります。」


 キューさんが言いました。


「なので、神様を探すのが、まず、あなたのお仕事です。」


「はあ・・・・・・・そりゃあ、意外と大仕事ですよ。裏方にはなかなか入れないもの。」


「まあ、そこは、われわれの組織が各階に配属されていますから。しかし、支配地域はまだ少ない。危険は大きい。そこはよろしく。」


「よろしくって・・・・あまりよろしくないけど。」


「ぼく、援護します。仕事はクビになったから、ひま。」


「いいだろう、なら、エネルギーを提供しよう。」


 店長代理さんが、そう提案しました。


「それと・・・これ、主様である証拠の『印籠』です。どうぞ。」


 なぜだか、ぼくもまた、うやうやしくその『印籠』を、受け取ったと言う訳であります。



 それで、ぼくの冒険が始まったのです。



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