冷静沈着な狂戦士と愛が重い姫
夜兎丸
第1話 プロローグ
「よし……では行こう……」
強い日差しと澄みきった空。心地の良いそよ風に、揺れる草木の音。そして、そんな素晴らしい日に風を受けながら駆け出した私。
「待ってください団長ォォッ!まだ総員準備終了しておりませんッ!」
目の前には黒い鎧を身に纏った敵の兵士が数百。私のいる草原には鎧の揺れる音と、敵達の号令の声……そして私の部下達の焦りや怒り、さらには苛立ちの声が響いていた。
「総員かかれぇいッ!王宮の兵士どもを血祭りに挙げて殺れぇへっいッ!」
敵方の部隊長らしき男の決まりの悪い指令が聞こえた。敵までの距離およそ50メートル。さっさとやってしまうか……
「団長ォォォォォッ!待ってってば!ちょっと止まってッ!1人じゃ危ないですよォッ!」
後方から部下の制止する声がより強く聞こえてきた。しかし既に敵との距離は数メートルに縮まっている。そうこれは仕方がない進行なのだ。私が先走り過ぎたとかそういう理由もあるかも知れないが、着いてこられなかった部下も悪いのだ。よってこの単独行動は仕方がないッ!
「オラオラァッ!バラされてぇヤツからかかってきなッ!まぁ結局根絶やしにするがなァッ!」
そう啖呵を切った私は背に背負った大剣を抜き、間合いに入っていた敵数名を薙ぎ払った。そしてそれによって生まれたスペースに文字通り切り込みさらに数名を斬った。
「たった1人に何をしてぉるんだッ!さっさとケリをつけてしまぇいッ!」
「隊長無理ですッ!コイツ『血濡れの狂戦士』ラグレム・デファイソンですッ!私どもでは太刀打ちできませんッ!」
うむ……随分と物騒な肩書きが付いたものですね私も。特に狂戦士というのは間違ってるぞ。私は理性が蒸発している訳ではないのだ。見ろこの冷静な戦いぶりをッ!
そんなことを考えながら右から来た敵を剣で斬り刻み、左から来た敵にはボディーブローを入れ、倒れたそいつを掴み前方に投げ、投げた先にいた怯んだ敵ごと叩き斬る。既に敵は半分も残っては居なかった。私の部下達は巻き込まれないためか一定の距離をとりつつ、私の倒し損ねた者達を的確に処理していた。
「くそぅッ!役立たず共めぇいッ!仕方ない……俺自ら片付けてやるぅッ!」
そう言って敵の隊長であろう男が私目掛けて駆け出してきた。そして私との間合いが縮まったところでハルバートを大きく振りかぶった。そして次の瞬間素早く振り下ろしてくる。これは避けてもいいのだが……よし受けよう。
ガッキィィン!敵のハルバートが私の剣に当たり鋭い音と衝撃が走る。
「ぬぅんッ!我が一撃を受けきるとはなかなかや……」
「フゥゥゥゥッ!これだよこれぇッ!いい衝撃だぜッ!戦ってるって感じかするぜぇッ!」
伝わってくる衝撃というのはいいものだ。自分が今命のやり取りをしているという実感が湧いてくる……生きてるっていいな……しかし今の一撃は少し軽いような気もするかな。
「流石は狂戦士ッ!感覚も狂ってぉるぅなあッ!」
「おっさんもっとだッ!まだ足りねぇッ!もっと俺をヒヤヒヤさせるような戦いをくれよォッ!」
「意気がっていられるのも今のぉ内だッ!」
そう言ってたおっさんも数分後には私の前に倒れる訳だが、まぁ他のヤツよりは手応えがありましたね。
そして、しばらくして全ての敵の掃討が終了した。
「いやぁ~皆さん!よくやってくれました!私の冷静な戦闘と指揮に着いてきてくれてありがとう!次もこの調子で……」
「行くわけないでしょうッ!毎度毎度1人で突っ込んで行かれては作戦の意味が無いじゃないですか!」
私の部下の不満が一斉に私を襲う。何がいけなかったのだろうか……
「何が不満なのかはいつものことながら分かりかねますが、とりあえず次の作戦会議の時に聞きますので帰りましょうッ!」
部下達の声を背中に受けながら、私は帰路に着いたのだった。
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