第7話

 その後、午後の授業は全部寝て過ごす。一日中寝てばかりだがそれでもまだ眠いあたりに人間の体ってすごいなと思いつつ起きる。

 するともう教室には誰もいなかった、いや、1人いた。

 メガネをかけた少女だ。誰一人クラスメイトは覚えていないのでクラスメイトの可能性もある。

 「あ、やっと起きましたね。『きーくん』」

 僕は危機感が足りていなかった事にその時ようやく気付いた。そもそも強行的に襲ってきた人間がいた時点で警戒はするべきだった。

 それにきーくんと呼ぶのはみー姉だけだし、このタイミングでそう呼ぶのは敵しか考えられない。

 「寝てるところをやっちゃうのは簡単なんですけど、それは私の美学に反するんですよね」

 ニコニコしながらカバンに手を突っ込み、なにかを取り出した。

 「これ、わかりますよね」

 ゴムベラだった。あんなので叩かれたらとても痛そうだ。

 「あー......そうだ、靴が脱げてるとか」

 「まあ、愉快な事を言いますね」

 目が笑っていない、マジだ。

 「まあ私たちも一枚岩では無くて、ですね。私はあなたを殺そうとしている方なので死ぬ気で逃げた方がいいですよ」

 死ぬ気で逃げたら死んじゃうから生きる気で逃げるの方が状況的には正しそうとか無駄な事を考えながら逃げる体制をつくる。

 幸い教室で机はたくさんある。少しは時間が稼げるだろう。時間を稼いでみー姉を呼んで2人でかかればこいつは木ベラを持っていないから幹部では無いし勝てると信じたい。

 そうと決まればみー姉に連絡をと思ったが連絡先を知らない!くそ!じゃあ僕一人じゃ無いか!

 「きーくんさん、逃げなきゃ」

 しかも相手は机を吹っ飛ばしながらやってくる。凄い硬いゴムベラなのだろうか。あんなので刺されたら死ぬのは間違いないだろう。

 すぐにドアまで追い詰められる。開けて逃げようとしても開かない。なぜ!

 「寝てる間に細工しといたんですよ、きーくんさん」

 ああもうだめだこれは多少の大怪我は覚悟しなければ。覚悟を決めて目を閉じた。さあ来いという気持ちだけはせめて持っておこう。その瞬間。

 ガラスが割れる音と共にひとりの女の子が、というかみー姉が教室に飛び込んできた。

 「おまたせ!」

 ちなみにここは3階だ。どうやって入ってきたのかと思ったらみー姉の上からロープが垂れてきた。どうやら上から来たようだけど無茶するな。スカートがめくれたらどうするんだ。

 僕の無用な心配を知ってか知らずか宣言する。

 「よくもきーくんをいじめてくれたわね!懲らしめちゃうんだから!!」

 「別にいじめていた気はないんですけど。結果死んでもらおうと思っただけで」

 相手は笑顔、みー姉は怒髪天を衝くとはまさにこの事であろう怒りを身に纏って立っていた。

 「まあ、あなたもきーくんさんのついでに死んでもらいましょうか」

 戦いが始まった。

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