悩み
浜野 さかな
第1話
キーンコーンカーンコーン…。
「あぁ、また休み時間か。」
ボソッと呟いた。憂鬱だ。
今からちょうど一週間前、新年度になったからクラス替えがあった。2年の時のクラスは友達がたくさんいて、ーというよりも、努力して友達をつくったと言った方がしっくりくるが…。ー とにかく毎日楽しくて仕方がなかった。そして現在にいたるが、やはり3年にもなると進路が重要視されるためだろうか、騒がしくならないようにクラスを決めたのだろう。それにしても、完璧に今までの仲の良かった友達とは離されたのだなあ、と周りを見渡す。もちろん2年間もこの学校に通っていれば、見たことのある顔のやつらがほとんどだが。案の定一週間も経てば、すでにグループはできていて、俺はなかなか今のクラスに馴染めずにいた。まあ、自分で言うのもあれだが、いわゆる"ぼっち"というものなのだろう。
それにしてもこの10分がやけに長い。そのせいで2年の頃を思い出す。俺は、クラスの中でも1番と言っていいほどうるさいグループに入っていた。7人ほどのグループで、ずっとその輪の中に閉じこもっていたせいか、この通りクラスに仲の良いやつが全くと言っていいほど誰もいないのである。それに、先生に目を付けられていたせいでもあるのだろうと、少し反省した。が、後悔はしていない。あんなに楽しくて最高だったのだから。今となっては、あれこそ青春だ!と思っている。
キーンコーンカーンコーン…。
「おっ、やっとか…。」
また、ボソッと呟いた。
今気づいたが、次の授業は日本史だったらしい。俺はいつも教科書などの必要なものは机の中に入れてある。2年の時の癖だ。あの時は、自分のイスからロッカーまで行くのすら惜しくて、全部入れてあったからだ。今となっては、ロッカーまで行く時間なんて、たんまりあるのだが…。先生がゆっくり授業をしているせいか余計なことを考えてしまう。これからどうしていこうかなとか、次の授業はなんだっけとか…。次は移動らしいから、理科室まで行かなきゃいけない。まず最初に浮かんだのは、ひとりで行きたくないっていう言葉だ。なんだかつらいのだ。こんなにひとりって悲しいものなのか、と、俺は頭を抱えてしまった。
今までは、友達をつくるために必死に話しかけて頑張ってきたが、流石にもう必死になるのは嫌だなあ、と、理科室へ向かいながら考えていた。たくさんの話し声と笑い声があちこちから聞こえる。この声すら今の俺にはつらい。まるで、ひとりでいる俺のことを笑っているようだ、と、考えたくないことを勝手に想像してしまった。一歩一歩がとても重い。早く教室に着きたいのに、うまく歩けない。教室に着いたらどこに座ればいいんだろう。そんなことすら考え始める。あわよくば、隣の席の人が話しかけてくれるんじゃないかと、変な期待すらしてしまった。手汗がすごい。これからやっていけるんだろうか。
今日は、4限までだったので早く帰れる。いつもだったら教室に残って友達とおしゃべりするのだが、今は違う。誰よりも早く教室を出る。廊下に出ると、少し離れたところに今までのグループで仲の良かったやつがいた。あ!と俺は一瞬顔がほころんだが、すぐにその笑顔はどこかへ消えた。そいつには俺の知らない友達ができていた。俺はなんだか虚しくなった。俺は声をかけずに階段を駆け下りる。自分の自転車が置いてあるところまで走って行って、急いで乗った。そのせいで、ペダルに足を擦ったが、その時は心の痛みの方が大きくてなにも感じなかった。
家に着いてから、はぁあっと、息を吐いた。落ち着く。ただその一言に尽きた。とりあえず、テレビをつけた。携帯を取り出して画面を見る。でも、頭の中は学校のことでいっぱいだった。また今日みたいな日が明日も続くのかと思うと、嫌で嫌で仕方がなかった…。
母親が帰ってくるのは大体8時頃。それまでに洗濯物をしまってたたむ。それが俺の仕事だ。いつもはだるくて仕方がないその仕事も、今日はなんだか学校よりはマシだった。
母親が帰ってきてから風呂に入っている時だった。
「いたっ。」
ペダルで擦った傷を思い出す。結構えぐれてた。涙がじわっと出てきた。俺は急いで顔をこする。悪いことじゃなくていいことを考えようとした。どうしようかと考えた俺は明日からの目標を立てることにした。友達がいなくてもできる自分のための目標だ。俺は大学へ行こうと考えていた。だから、最初はざっくりと、毎日、休み時間は英単語の暗記、昼休みは、それまでの復習…。我ながらにいいアイディアだと思った。将来やりたいことがあるのだから、今の状況を利用しようと考えたのだ。別に勉強がこれといって好きというわけでもなく、得意というわけでもなかったが、まあ良しとしよう。
「頑張ろう!」
と、自分に言い聞かせた時、ちょっと頭がくらっとした。のぼせた…。
次の日もそのまた次の日も俺は勉強した。もう周りからは、いわゆるガリ勉というあだ名がついただろう。まあいい。みんな見とけよ。俺は目標に向かって頑張ってるんだ。
しばらく経ったある日、俺が勉強していると、誰かが俺の名前を呼んだ。ふと頭をあげると、そこには俺の隣の隣ぐらいに座っているクラスメイトだった。なにか業務連絡かなんかだろうかと思って、
「なに?」
と聞くと、彼は、
「急に話しかけてごめんね。いつも勉強してるよね。僕もそろそろ勉強始めなきゃと思ってて、もしよかったら、一緒に勉強教えてくれない?勉強苦手で…。」
と、話しかけてきたのだ。僕はびっくりして、5秒くらい固まってしまった。その後、はっとして、首を縦に振ったのだった。
それから1ヶ月がたった。そいつは俺の親友と呼べるやつになった。根が真面目なやつだから、勉強もはかどる。それに、自分はもう1人じゃないんだ、と、思うとなんだか不思議でくすぐったかったけど、あたたかくて、もっと頑張れた。それに後から知ったことだけど、そいつも俺と同じ大学が第一志望で、お互い励まし合ってもっと頑張れた。
数ヶ月後、俺たちは大学に受かることができた。きっとあいつがいなければ、ここまで頑張ることはできなかっただろう。
この1年で学んだのは勉強だけじゃない。どれだけ友達の存在が大きいか、だ。励ましあったり、喧嘩したり、遊んだり…。たまにきついこと言っちゃって傷つけたりすることもあったが、本当の友達はそんなことじゃ離れていかない。これは俺が身をもって知ったこと。何か頑張っていることがあれば、それを賞賛してくれる人が現れる。それに、次は俺がその立場になれたら、と思うのだ。
大学生活が始まる。まだまだやれることはたくさんある。どんな生活を送ろうか、どんな人間になっていこうか、とても楽しみだ。
人はいつまでも目標を持っていい生き物だ。俺の今のところの目標は、つらくても諦めないこと。きっとそうしていれば、俺のことを真正面からちゃんと見てくれる人が現れるはずだから。
終わり
悩み 浜野 さかな @sakana__
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