転生村人の異世界攻略

白兎

最弱の天職

“村人”

 それは、最弱の職業。

“剣士”のように、剣の扱いが上手いわけでもなく、“魔術師”のように、魔法の扱いに長けているわけでもない。


 故に最弱。誰しもが、そう思っているだろう。それを証明するかのように、ある村に、多数の子どもが、一人の少年に寄ってたかっていじめていた。


 その少年こそ、俺だ。


 俺はいじめられるようなこと、一度もしたことがない。だけど、俺が“村人”だから、それだけの理由で、いじめられている。


「こらー。ゆーたくんをいじめるなー!」


「ゲッ。フレアだ! お前ら、逃げるぞ!」


 俺をいじめていた子どもたちは、俺の幼馴染であるフレアが駆け付けて来た途端、逃げ出した。


「……ありがとう」


 俺は服に付いた土を払って、立ち上がった。


「どういたしまして。それより、ゆーたくん、けがはない?」


「無いよ」


「そうなの? よかったぁ〜。じゃあ、はやくおうちにかえろ。おかあさんたちがまってるよ」


「……うん」


 フレアは手を出してきた。手を繋げということだろう。俺はフレアの小さい手を握ると、微笑んだ。


 フレアも微笑み返してきて、一瞬俺は、ドキッとしてしまったけど、平常心を保つことに成功する。


 というのも、俺は地球からこの世界に転生した転生者だ。つまり、俺はフレアより倍以上の人生を歩んできたことになる。


 もし、フレアを恋愛対象と見てしまっているのなら、俺はロリコンということになるが、今は安心してくれ。


 俺は歳下好きだが、幼女趣味はないからだ。……まぁ、もしかしたらの話だけど、フレアが大きくなった時、俺のことを好きだと言ってくれるのなら、結婚してあげてもいいけどな。


 と、未来のことなど、今から話していても意味は無いな。俺がこの世界に転生した経緯は、追い追い話すことにして、今はフレアのことを話そうか。


 俺の幼馴染である幼女の名は、フレアこと、フレア・ウィーベル。俺と同い年で、五歳だ。


 フレアの両親は、英雄として名を馳せたこともある実力はで、現在も冒険者として、活躍している。


 フレアも二人の血を受け継いだのか、近い将来、この世界の平和の象徴となるであろう職業、“勇者”だ。


 俺としては、あまり無茶をしてほしくないし、ある感情から、素直に喜べないが、世間一般的には、喜ばれる存在だろう。


 だけど、“勇者”は尊敬されるとともに、脅威でもある。何故なら、“勇者”の力は圧倒的だからだ。


 どれほど、“勇者”の力で異常であるかを、言葉で説明するならば、たった一人で一国を滅ぼすことが出来る。


 その力故、フレアは尊敬されると同時に、先ほど俺をいじめていた子どもたちのように、脅威から逃げる人も少なからずいる。


 とは言え、敵に回さなければ、脅威でも何でもない。そう俺は思っている。


「ゆーたくん? どうしたの? やっぱりけがしてるの?」


 フレアは俺を心配しているが、本当に怪我などしていないから、「大丈夫だよ」と微笑んだ。


「わかった。それじゃあ、おうちまできょうそうね!」


「分かった。……行くよ、よーいスタート!」


 俺とフレアは、ほぼ同時に走り出した。


 だけど、俺とフレアの間に、差が開いて行く。俺がフレアの前を走っていると思ったか? 走れるわけないだろ?


“村人”である俺が、“勇者”であるフレアに勝てるわけない。それは常識だ。もし“村人”が“勇者”より、“ステータス”の値が一つでも勝っていれば、自慢してもいいだろう。


 一月ひとつき前。今年五歳になる子どもたちの儀式が、村の教会で行われた。


 儀式の内容は、至って簡単だ。“天職”、いわゆる自分に合った“職業”が何なのか、それを調べるだけ。


 それで、俺が“村人”でフレアが“勇者”と分かったわけだな。そして、その儀式では、“ステータスカード”と呼ばれる魔道具が配布される。


“ステータスカード”は、所持者本人の強さ、いわゆる“ステータス”が書かれている物。身分証明書にもなるから、“村人”や“商人”と言った非戦闘職の人たちにも、重宝されている。


 で、だ。勿論気になるのは、“ステータス”だろう。フレアの“ステータス”を見たときは驚いたよ。“村人”と“勇者”に、こんな分かりやすい差があるなんてな。


 一月ひとつき前の俺とフレアの“ステータス”はこうだった。


 ===================

 ユウタ・ティグレ 5歳 男

 天職:村人

 レベル:1

 筋力:5

 体力:4

 耐性:5

 敏捷びんしょう:4

 器用:3

 魔耐:3

 魔力:1

 技能:

 ===================


 ===================

 フレア・ウィーベル 5歳 女

 天職:勇者

 レベル:1

 筋力:120

 体力:100

 耐性:110

 敏捷びんしょう:140

 器用:150

 魔耐:120

 魔力:130

 技能:柔術Lv1 体術Lv1 居合術Lv1 武器術Lv1 全属性適性Lv1 神聖術Lv1 全属性耐性Lv1 物理耐性Lv1 状態異常耐性Lv1 体力回復速度上昇Lv1 魔力回復速度上昇Lv1 身体能力上昇Lv1 詠唱短縮Lv1

 ===================


 こんな差見せつけられたら、笑いしか出てこないよな。俺は転生者にも関わらず、主人公にはなれず、モブだったようだ。


 この世界の主人公は、間違いなくフレアだ。そのことを理解した時、俺はフレアに対して、劣等感を抱いた。


 何故、フレアなのか。何故、俺ではなかったのかと。


 勝手にこの世界に転生させられて、この仕打ち。異世界なんだから、冒険の一つや二つしてみたかった。


 でも、出来ないという現実を叩きつけられた。俺はそれだけでも相当こたえたというのに、フレアは自分が“勇者”だという自覚を持たず、いつもニコニコ笑いやがって。


 クソ可愛い。何なんだよ、あいつは。全く憎めないじゃないか。そして、いつのまにか俺は、叶わないかもしれない願いを果たす為、走り出していた。


 いつか、仲間たちと共に冒険をする、そんなことを想いながら。


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