第40話このままだったらバッドエンド=死亡エンド?
街灯に照らされながら夜道を黙々と歩く。
「だめだよ、怜」
「何が?」
「女の子があんな……その」
うさぎは視線をおろおろと泳がせた。あっちにいったりこっちにいったりと世話しない。
「×××のこと?」
「だから駄目だって!」
あわあわしている。真っ白いうさぎなのに真っ赤になった。
「怜って顔はかわいいんだから似合わないよ」
「ああそう」
そういう世辞はいらない。私はうさぎの言った言葉を適当に流した。
「でもさ、最後のはちょっとよかったかもね」
「最後?チ○毛頭のこと?」
「違う……近寄るなって啖呵」
「一応あいつも攻略キャラクターの一人なんだよな。交流深めろとか言わないの?」
「まぁね。でも僕も彼の発言にちょっとイラっとした部分があったから……スカっとしたかな」
「どっちにしてももうあいつとの関わりはないな」
一人除外だ。
「う~ん」
「なんだよ」
「それはどうかな」
前にもうさぎのこの唸る姿勢見たことがある。
やめろ。嫌な予感がする。
「おい―」
「あ、そろそろだ」
「は?」
「もうすぐ、7時だから帰らないと」
私は懐中時計を確認した。7時になる1分前だ。
「あとはもう帰るだけなんだよね?」
「まぁ」
「それじゃあ、また明日」
うさぎが小さい手を振ると同時に長い耳もぴょこっと動き、その場から消えた。
しんと静まり返った夜の街。私は歩道の石畳をこつこつと歩く。
うさぎと別れて家路についている私だが、現在多少ピンチに見舞われている。歩道の真ん中を一人で歩いているため音が耳に響く。しかし、現在鳴っている足音は一人分ではなく二人分だった。私の足音に紛れるかのように後ろから誰かが私をつけている。私が早足になったらその足音も早くなり、速度を緩めたら私に合わせるかのように緩くなる。
一定の距離を保ち、私から離れない。最初は気のせいだと思おうとしたが、一度気になったら全神経が後ろに集中してしまう。
強張りながらも振り返った。影が動いた。暗がりで輪郭ははっきりしなかったが振り向いたと同時に素早く建物の角に身を隠しことはすぐにわかった。
「きもちわるい」
顔面蒼白とはこのことだろう。肌寒さいはずなのに冷や汗が出る。
どこまで付いてくる気だ。なんなんだ。いったい誰だ。ただの暴漢の可能性もあるが、心当たりのある人物を巡らせる。
もしかしてシオンか?さっきの仕返しのつもりか?でも、曲がりなりにも攻略キャラクターがいきなりこんなストーカーまがいなことするか?まさかあのときのチンピラ二人のうちの一人か?
すれ違ったのも一瞬だったし目だって合わなかった。あのとき着用していたジャケットも今日は着ていない。この帽子だって目に付きやすいものではない。
もしかしてここってゲームでいうところの分岐イベントなのか?シオンに家まで送ってもらうことがバッドエンドを回避する選択肢だったのか?このままだったらバッドエンド=死亡エンド?
考え始めたらきりがない。私は周りを見渡した。誰もいない。あるのは整然と並ぶ建物と街灯だけだ。
今はうさぎもいないので一人で切り抜けるしかない。このままだったら家まで付いてくる可能性がある。
私は一呼吸置き、被っていた帽子を脱ぎ強く握り締めた。
そして地面を踏みしめ駆け出した。当然、後ろの人影も同じように駆けてくる。私はどちらかというと足は速くないし持久力もない。
スピードを落とすとすぐに追いつかれてしまう。曲がり角を何回も曲がり、後ろの人影を振り切るしかないだろう。
私は何回も曲がり角をくねくねと曲がり、ときにはフェイントをかけながら走った。しかし、なかなか後ろを振り切れない。このままだったら街灯の光が届かない裏路地の奥まで入り込んでしまう。ピンチを振り切ろうとしているのにそのピンチに自分から入ってしまうなんて本末転倒だ。引き離していた距離が後ろの足音で徐々に縮まっていくのを感じる。
振り切れない。どうすれば。
「こっちです」
突然誰かに左手をつかまれ引っ張られた。スピードが落ちかけていた走力が引っ張られる形で再び上がり、おかげで縮まっていた後ろの人影を引き離すことが出来た。
掴んでいる人物を確認しようと顔を覗いた。
「次の角を曲がります」
「あ、あんた!」
暗がりで顔はぼやけているが声と髪の色で認識できた。
私にとって意外な人物だった。
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