第4話夢だなこれは

「ねえ、ちょっと」


(………)


「ねえ、起きてくれる」


(………?)


「ぜんぜん起きないなあ」


(………なんだよ、うるさいな)


「あれ?眉間にしわが。起きる?」


うるさいな。さっきからぶつぶつと。

母と姉の声じゃない。12歳くらいのまだ声変わりしていない男の子の声だ。


私はうっすらと目を開けた。


あれ?白い。目の前が真っ白だ。消灯したため、薄暗いはずなのに。

だんだんとぼやけた視界がはっきりしてくる。視界全体が白いわけじゃない。目の前で何かが浮いている。薄暗い室内でそれの輪郭がはっきりしていた。


それは物体ではなく生体だ。耳が長く垂れ下がり目が赤く体全体が白い。

うさぎだ。でも、私が見知っている普通のうさぎではない。体全体が餅かマシュマロのようにふっくらとしている。触ってみたら伸びそうだ。決して太っているわけではないその体から小さい手足が見えた。


さっきの声はこのうさぎだろう。一番普通ではないのは喋っていることと宙に浮いていることだ。


私は寝ぼけた目でぼーとそのうさぎを見つめた。うさぎは私を見定めるようにじっと見つめ意を決したかのように顔面まで近づき口を開いた。


「ねえ、僕と契約してヒロインになってよ」


「…………」


私は仰向けになりながら右手でうさぎの耳を思いっきり掴んだ。


「ぐっ?」


うさぎは私の突然のことで驚き、声を上げた。私は気にせず思いっきり壁にたたきつけた。


「ぐぎゃ!」


なんだか変な声がしたような気がする。


はじめてかもしれない。夢の中で夢だとはっきり自覚したのは初めてだ。しかも夢の中でかなりイラっとすることを言われたような気がする。なんか某魔法少女アニメのマスコットキャラクターのセリフと似ていた。それにしても手で掴んだ感触がかなりリアルだった。掴んだ瞬間モチっとしていて伸び縮みしそうな感触だった。一説で夢は願望の表れだとも言われている。つまり私はあんな宙に浮いたぬいぐるみみたいなうさぎにあのセリフを言われたいということになる。


イタい。イタいにもほどがある。我ながらいい年して気色悪い。

おそらく漫画やアニメの見すぎだろう。今後は少し見るのを控えよう。もうこんな死にたくなるような恥ずかしい夢はみたくない。


とりあえず寝て忘れよう。


あれ?でもこれは夢だから「寝る」という表現は違うかもしれない。夢の中で夢を見るというのもアリなのだろうか。そもそも夢の中の夢ってなんなんだ。考えたらわからなくなってきた。

もういいや。寝て忘れよう。


私は半分ウトウトした瞼を閉じすぐに眠りに落ちた。

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