クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる
キリアイスズ
第1話まったくときめかないはじまり
広い部屋高い天井、二人分以上もある広いベッド。そして目の前には私にのしかかって来る来る男。
「好きだよ、レイ」
「……」
そういって目の前の男は自分に迫ってくる。白いシャツをはだけさせながら私の脚の間に膝をいれ、右手で頬を優しくなでてくる
絶対に逃がさない、と言葉がなくでも伝わってくる。服越しでも相手の体温が伝わってくる。
私の心臓も高鳴っている。自分でも止められないほど鼓動が速い。息ができないほど苦しくで震えてしまう。
「私も」
苦しさに耐え切れず私は言葉を綴った。そして彼は柔らかく微笑み、そのまま私の顔に近づいていく。
「なんて言うわけねーだろ」
私は自分の唇を守ろうと相手の唇を手で覆った。普通の女だったらイケメンにベットで愛の告白なんてされたらドキン、と乙女ゲームや少女漫画のようにときめき相手に身を任せただろう。それほど目の前の男の色気、声、表情のフェロモンがだだ漏れている。現在私もドキドキしている。でもこのドキドキはときめきじゃない。
恐怖でドキドキしている。
なんで好きでもない人間に迫られてキュンとしなくてはいけないんだ。いくら顔がよくても恋愛感情まったくない相手にいきなり押し倒されたらある意味個人的にはホラーだし気色悪い。
少女漫画でよくこういう似ている展開を見る。
「強引だけど彼の表情や告白でどきどき」という感じでその場の甘ったるい雰囲気で二人がくっつくご都合主義な展開がかなりある。よく思うけど、ヒロイン頭お花畑過ぎるだろ。美形な男に口説かれれば下手すれば通報されるのでは?と思ってしまう行為が帳消しになったみたいにハッピーエンドになることが多い。
やっぱり顔か?顔がよければよいのか?一応私も女だからその気持ちは多少なりとも理解はできるけど。
乙女ゲームはみんな無駄に綺麗どころばっかりだから。これがブサイク男で、お決まりの壁ドンとか顎クイとか床ドンとか突然の抱擁とかだったら悲鳴モノだし、キスだったりしたら悲鳴どころかゲテモノ系になっている。現実でも顔が良い男はもてる。でも、顔が良いだけでは必ず飽きる。見た目がよければ多少のことは我慢できるなんて頭に花が咲いているとしか思えない。
なんて、そんなこと考えている場合ではない。私は目の前の男の肩をおもいっきり押しのける。
「とりあえずどいて」
「僕はキミのこと――」
「いや、はやくどいてよ」
「最初は興味だったかもしれない――」
「聞けよ」
「でも」
「どけ、こら」
「僕は」
「おい、殴るぞ」
「君が」
「この×××野郎」
目の前の男は私の話を聞いていないのか私を口説き続けている。たぶん、無視を決め込んでいる。
普通にイラっとする。これだけ嫌な顔しているのに。
こんな口汚い女を口説き続ける思考がすごい。悪い意味でだけど。
さっきから右手で押しのけているのにびくともしない。私がこういうのが嫌いって知っているはすなのに。
男が私を抱きしめるように圧し掛かってくる。
「ひっ」
思わず小さく悲鳴をあげる。普通に怖い。普通にやばい。
完全に貞操の危機だ。このままだとR18に突入してしまう。
なしくずしに私の大嫌いなご都合主義展開になってしまう。
なんでこんなことになってしまったのか。真夜中に勘弁してほしい。今頃は完全に夢の世界に入っているのに、眠気がさめてしまったではないか。
夜中にあれこれ考えたり力んだりするのはかなり億劫なのに。こうならないように今まで恋愛フラグは折ってきたはずなのに。好感度の選択肢があった時マイナスの選択をしてきたはず。
私は前向きな性格でもなければ明るい性格でもない。皮肉屋でものぐさ。笑顔はほとんどなく、ジトッと死んだ魚のような目をしている。私は王道ヒロインのような聖人君子のオーラがまったくないタイプの女だ。もし、自分が男だったら絶対にごめんだって言動をしてきたはず。
端からみたらクズだ。
あと少しなのに。もう少しで帰れるのに。
はやく逃げ出したい。この私に迫ってくる男から。この虫唾が走る世界から。
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