アイドルウォーズ
月夜
握手会にて
「ねぇ、一緒に握手会から抜け出さない?」
俺はこの状況が夢なのか現実なのか分からなかった。
ここには俺の好きなアイドルがいて、そのアイドルに握手会を抜け出すことを提案されている。
正確には抜け出すのはアイドルだけだが、好きなアイドルに提案されると俺まで握手会を抜け出すという気分になってくる。
そもそも何でこんな状況になったのか。それは握手会が行われる日の朝まで遡る。
俺には好きなアイドルがいる。道玄坂46の伊藤春香、通称いとはるだ。
初期の頃から応援しているので、もちろん認知も貰っている。
今日はおよそ月1回のペースで行われている握手会が開かれる。
今日もいつもみたいに、いとはると楽しい会話をして、良い気分で帰ろう、そう決めていた。
そんな中事件は起きた。
いつものように会場が開くのを並んで待っていたその時、突然手を引かれた。
その手は何だか親しみのある手だった。そのせいで安心感もあり、連れて行かれているという状況に危機すら感じなかった。
会場の裏にあたるのだろうか。気付いたら人気の少ない場所へ来ていた。
俺の手を引いたのは誰か気になり、振り向くと、そこには伊藤春香がいた。
最初はそっくりさんという考えも浮かんだが、今まで何回も見ているので、それが本人であることを確信するのに時間は掛からなかった。
「え、いとはる!?嘘だろ!?」
「シーっ!静かにして!誰かに見られたら困るでしょ。」
「は?誰かに見られたら困るって、今日は握手会だろ?ここで何してんだよ。」
「そういうこと聞くのは後にして。とりあえず提案があるの。」
「な、何?」
「ねぇ、一緒に握手会から抜け出さない?」
俺は彼女の言っていることが分からなかった。
「は?」
「説明はあとでしっかりするから。一緒に抜け出してくれるかくれないか教えて。」
「そりゃ、好きなアイドルと一緒にいられるのは嬉しいけど、今日はいとはるとの握手を楽しみに待っているファンもたくさんいる。俺のオタク友達もいとはると握手するためにわざわざ遠くから来たって人もいるんだぜ?一緒に抜け出すわけにはいかないよ。」
「時間かかるからここではあんまり言えないけど、道玄坂46がなくなっちゃうかもしれないって言ったら付いてきてくれる?っていうか付いてきてください!」
「は?それってどういうことだよ。詳しく教えてくれ。詳しく教えてくれないと付いていかない。」
「そりゃそうだよね。わかった。軽くだけど、話すね。」
そうして彼女は握手会を抜け出さなければいけない理由を話し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます