愛は義務より良い教師である。ⅩⅤ
「な、何?」
顔だけ後ろに向けて毒ヶ杜さんを見る。
「トイレ、ここにあるじゃない。ここでして?」
にっこり満面の笑みで僕らの背後に身を潜めるトイレを指差して毒ヶ杜さんは言った。
(ステルス迷彩ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!)
完全に忘れていた。ここは、トイレと風呂が繋がるユニットバス。目の前にあるトイレを自分の倅を毒ヶ杜さんに悟られないようにとそっちにばかり気を張っていた為、完全に忘れていた。
このトイレ、ステルス迷彩か。
「早くして。私、ここにいても別にいいよね? だって私、彼女だし」
(関係ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)
彼女とか関係ないよ毒ヶ杜さん!! だってトイレだよ、トイレ。プライベート中のプライベート空間でしょうトイレって!
それが誰であろうと一人でしたいよ、トイレは。まぁ、今回に限っては嘘なんだけど。
「どうしたの? 目島君」
「いや~あの~じゃなくてちょっと用事を思い出して~」
「じぃ~」
ヤバイヤバイ。めっちゃ怪しんでる。そりゃそうだ。いくらなんでも嘘が下手すぎる。
「目島君、逃げようとしてるでしょう」
「そんな訳ないでしょう。女の子とお風呂って男にとって夢なんだよ?」
「じゃあ、何でさっきから後ろばっか向いてるの?」
レスポンス関係ねぇ~
「それは~あの、そう! 僕の背中を毒ヶ杜さんに見てほしくて。どう? 僕の背中、たくましいでしょ?」
「いや、ただのもやしだけど」
「ですよね。すいません」
何の涙か分からないけど、止まらないよ。
「とにかく、目島君は私とお風呂に入るの! これは決定事項ぅ!!」
だから絶対逃がさないよと言って毒ヶ杜さんは、後ろから思い切り僕に抱きついた。
「ひゃん!?」
突然抱き疲れて変な声を出た。
「はははっ。目島君女の子みたい」
あーもうダメだ。目の前がクラクラする。……何でって?
毒ヶ杜さんは別に抱きついて僕の動きを封じたんじゃない。まぁ、それもない事にはないんだろうが、本当の手段はたわわに実った女の武器を僕にお見舞いしてここに足止めようとしているんだ。
毒ヶ杜さんの柔らかいそれが僕の背中をぐりぐりと暴れまわる。
そんな事されたら、倅が、倅が……倅がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
完全に元気百倍いや、千倍万倍になった倅が俺様は誰にも止められねぇと言わんばかりに、キリキリと痛む。
(まずい……今、こちら側を見られたら、終わる。きっと流石の毒ヶ杜さんも悲鳴を上げて逃げるに違いない)
「ほら、目島君こっちに戻って」
言って毒ヶ杜さんは抱きついたまま、僕を風呂に引き戻そうとする。
そんな事、しちゃダメだ。毒ヶ杜さん。そん、な事、されたら……僕のせが……痛い!!
男の気持ち考えて。こういう時男の子は動けないの。いや、動いちゃダメなのぉ!!
頭の中で悪循環を連想して涙が流れる。
と、その時、部屋の扉から何か音が聞こえた。
『やばい!? 誰か来た』
無駄に小声でそういうとうっそ!? と毒ヶ杜さんは僕を抱いたまま、風呂場からひょこっと顔を出した。
玄関の方を見る毒ヶ杜さんに僕は言う。
「毒ヶ杜さん、ロープ!!」
毒ヶ杜さんはここにロープを使ってやってきた。そして、そのロープは今もベランダに吊るされたまま放置されている。
今、それが誰でも、部屋に入ってこられたら、終わる。普通、ロープがベランダに吊るされてたら不思議がるだろう。
ましてや、ベランダの扉も開けっ放しだ。
部屋に入ってきて、すぐ目の前にあるベランダは扉を開けたら、絶対に目に入る。
そこでコンコンとノックされ、鍵をかけていない部屋の扉が開いていく。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
僕の、いや、この状況になっても僕を抱き続ける毒ヶ杜さんも密着しているから心臓の音が聞こえる。二人とも心臓バクバクだ。
扉が開きかけたそこで毒ヶ杜さんはそれに手を伸ばした。
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