人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。ⅩⅧ

***


 土曜日。


 今日は委員長と修学旅行の準備をする為、お出かけもといデートの日だ。


 人生初のデートにいつもよりしっかりとオシャレをして、僕は家の前で委員長を待っていた。

 こういう場合、普通男の方が迎えに行くのが、当たり前だが、家を知らない僕が委員長に迎えに行くから教えてと言った所、私が行くから待っててと言って聞かなかった為、こうして委員長の到着を心待ちにして待っている。

 しばらくして、後ろから聞き覚えのある声に呼ばれて振り向いた。


「目島く~ん」


「……!?」


 そこにはいつも見ている委員長とは、一味も二味も違う真っ白のワンピースに身を包んで、肩から斜めがけに提げられたカバンの紐がその豊満な胸をより強調させた普段なら絶対お目にかかれない健康的に色っぽい委員長が僕の名前を呼んで手を振ってこちらに走ってくる。


(!? 揺れている!! ……ってダメだ見るな僕のバカ!!)


 走れば当然揺れるそれに見惚れていると、我に返って頭をブンブン振る。


「はぁ…はぁ…目島君遅くなってごめん。……待った?」


 僕の前で止まった委員長は両手を両膝に乗せて、息を切らせて言った。


「五分前だし全然遅れてないよ。僕が早く待ってただけだし」


 言って何気なしに肩で息をする委員長に目を向ける。


「!?」


 両手を両膝に乗せて屈んだ状態で僕の前に立つ委員長は、僕の方からだと服がたゆんで胸元ががっつり開いて見えてしまっている。


「いやでも私、人を待たせるのあまり好きじゃ……ん? 目島君どうしたの? 顔赤いけど?」


 話途中に顔を上げて、上目づかいに僕と目が合った委員長は頭にはてなを乗せたまま首を傾げた。


「ん? あっな、何でもないっ……何でもない訳じゃないけど……えと」


 委員長と目が合って慌てて両手を前に、委員長の胸元を遮って、見てはいけないと天使の声に従うが、その一方悪魔の囁きに遮った手をずらしてその隙間から拝もうとする。


 男子だ。こういったしょうもない戦いはしょうがない。

 そもそも、これが委員長じゃなく、仮に女装した男だったとしてもそこは、どうしても見てしまう。


「大丈夫? 調子悪いの?」


 本気で心配して顔を近づけて覗き込んでくる委員長に、生唾を飲み込む。


(近い!!……女子が近すぎてどうにかなりそうだ)


「だ、大丈夫だから……本当に」


 言ってその場から一歩引いて、委員長から少し距離を取って、触れないように両手を開いて前に出す。


「そう? 具合が悪いとかあったらちゃんと言うんだよ?」


 まるでお母さんみたいな委員長に言われて、僕は情けなく首を縦に振る。


「よし、じゃあ少し早いけど、行こうか」


「そうだね」


 そう言い歩き出す委員長の後を追う様に僕も歩き出した。

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