人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。ⅩⅢ
***
「そうだ。いい機会だし、目島君の事教えてよ」
隣を歩く委員長が僕の顔を見て言った。
「僕の……事? またどうして急に」
僕も委員長の顔を見て目を真ん丸くして聞いた。
「どうしてって入学して一ヶ月経つけど、まだ目島君の事良く知らないな~って思ってさ」
「僕なんてどこにでもいる冴えない一学生だよ」
そこで、
「そんな事言っちゃダメなんだよ!!」
そう言って委員長はここが公衆の面前であることも忘れたかの様に身体を僕の方に屈めて、僕に寄って頬を膨らませて言った。
急に寄られて僕の心臓は一気に飛び跳ねて、身体も後ろに仰け反った。
(近いよ……委員長……む、胸が……)
鈴木情報のたわわに実ったEカップが僕の眼前に押し寄せて、ほのかに香る委員長の甘ったるい香りも相まって頭がクラクラして緊張で苦しくなり、身体も火照る。
「えっと……な、何?」
無意識に聞き返す。委員長も何か言っているが話が全く頭に入らない。
僕の意識は完全にEカップに持ってかれてしまっていた。
っていかんいかん。しっかり委員長の話を聞かないと。胸を見ていたなんてバレたら大変な事になる。
「目島君、聞いてる!?」
我に返って数秒後、委員長の顔が眼前にあり、僕は驚いて尻餅をついた。
「大丈夫? 目島君」
言って委員長は手を差し伸べる。
「ありがとう……」
委員長の手を掴んで立ち上がり、制服についた埃を払った。
「で、何だっけ?」
僕が聞き返すと、委員長は思い出したようにそうだっと言って話し出した。
「自分の事をどこにでもいるとか冴えないとか言っちゃダメだよ。個性は人それぞれだし、部分的には同じ様な人もいるけど、目島君は目島君なの。世界に一人しかいない。他に代わりはいないの。だからもっと自分の事を大事にしなさい!!」
まっすぐ真剣に僕を見て、そう言った委員長を見て僕の目頭が熱くなる。
委員長の人柄の良さに感動してしまったのだ。きっと世界に委員長のような人しかいなかったら平和なことであろう。
泣いて空気を変えまいと必至に耐えるが、今の顔を見られたら勘のいい委員長なら簡単に気づかれてしまうと、顔を反対に伏せた。
目元をさっと服の袖で拭って委員長の方に向き直る。
「やっぱり、委員長は委員長だね」
僕はにこっと笑って言うと、委員長は頭にはてなを浮かべてぽけっとした。
***
「そうなんだ~目島君はメンチよりコロッケ派なのか。私もどちらかといえばコロッケかな」
自分の事を教えて欲しいと言われて、お互いに自分の事を教えあって僕らの親密度は一ヶ月前より遥かに濃密に、そして深いものになった。
僕個人的にも委員長の事を知れてよかったし、実に有意義な帰り道になったな。
「あっ、僕の家ここなんだ」
会話が弾み、気がついたら家の前まで着ていた僕はそう言って委員長を見た。
「嘘!? ここなの? 私の家もこの辺なんだよ! ……そっか。目島君ちとうち近かったんだ」
僕の家を見上げてながら委員長はふむふむと頷いた。
「じゃあまた明日ね」
「うん。また明日」
僕らは付き合っているかのように手を振り合って別れた。
委員長を見送ると家の敷居を跨いで中に入る。
今日は委員長の事色々知れてよかった。……あれ? もしかしてこれって友達?
確かに考えてみれば、これって友達じゃないか。まさかこんな僕が高校で女友達を作るなんて夢みたいだ。
瞳から流れた涙が止まらない。
本当にいい一日だった。
内心穏やかな気持ちで僕は家に入った。
僕はこの時の事を後に後悔する。
どうして浮かれてしまったんだと。
どうして一人で帰らなかったのかと。
そして、どうして尊敬するアインシュタイン先生の言葉を忘れてしまったんだと。
人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。……のに。
***
眼前に広がる光景に驚愕、呆然を通り越して、負の感情が芽吹く。
徐々に苦しくなる胸の痛みに耐え切れなくなって、その場にしゃがみ込んだ。
「はぁはぁ……」
苦しい。辛い。
彼は……彼は私のなの。
なのに……
憎しみを覚えたそのうしろ姿を思い切り睨みつけて、歯が折れんばかりの力でぎちぎちと歯ぎしりをして言った。
「誰なのよ……あの女……」
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