人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。Ⅸ
***
四限目の美術の授業を終えると次は、お昼休みだ。
美術室から教室に戻ってきた僕はいつもの場所に向うべく、カバンの中に入ったおにぎりを取り出そうと、机の横に引っ掛けたカバンを机の上にどすんと置いた。
ゆっくりカバンのチャックを開けて行き、ぱっくり開いたカバンの中に手を入れようとして、あるものが目に入り、手が止まる。
「!?」
(何……これ)
出てきたものは、なんと昨日なくしたはずの弁当箱。
(えっどういう事? 何で入ってるの?)
昨日は忘れた事に気づいてからは、絶対カバンの中には入ってなかったのに……
そもそも、こんな大きいもの入ってたらすぐ気がつく。
一体、何故……
突如として消えた弁当箱が翌日になって、持ち主の所に帰ってきたというのか。
ってそんなわけないだろう。じゃあ何である?
どっからどう見ても僕の弁当箱であるその弁当箱は、中身が入っているのかずっしり重みを感じる。
(もしかしてこれ、中に昨日の弁当入ってない?)
そう思った僕はカバンの中に入ったままの弁当箱の蓋に手をかけた。
ごくりと生唾を飲み込み、嫌な予感を感じながらゆっくり蓋を開けた。
「えっ」
ここで再びの驚愕。今度は思わず声が出る。
昨日の痛んだ弁当がご登場か思われたその中身は、全くの正反対で色合いも気を使われて綺麗に装飾された栄養価の高いものばかりが詰め込まれた手作り感マックスな凄く美味しそうな弁当だった。
そんな弁当を見て午前授業ですっかりお腹ペコペコになった僕の腹がぐーぐーとこの弁当を食べたいと主張する。
(どういう事なんだ……)
弁当箱の事は不本意だが、勘違いとか自分を納得させる方法はあったが、中身がそっくり変わっているとなると話が変わってくる。
だってこれはどっからどう見ても母さんの作った弁当じゃないし、毎日食べているんだ流石に分かる。
という事は、昨日弁当箱がなくなったのは、僕の勘違いではなくて、持って来ていたけど誰かに持ってかれたって事になる。
推測ではあるが、この綺麗な弁当を作ったのも、弁当箱を持っていた人だろう。
しかし、分からないのは何でそんな事したのかだ。
昨日の謎が解けても、この謎は解けない。
(えっ? 何、イジメ? 僕イジメられてるの? いや、でも弁当箱ぱくって色合い綺麗でこんなに美味しそうな弁当代わりに作ってくるイジメある?)
えっ? イジメ? イジメじゃない? と頭がこんがらがって来て、こめかみを嫌な汗が伝う。
と、そこで授業終わりで教室に戻ってきた相変わらずうるさい取り巻きの……木ノ本? あっ、木下だ。木下達が、こちらに歩いてきて唐突に話しかけてきた。
「うわっ、真島の弁当お洒落ぇ~すみれちょっと見て見て! ちょー綺麗じゃない?」
「だから、目島だって花」
木下の後ろの冷百合? が木下の後ろからひょこっと顔を出して言った。
「あっそうだった。ってそんな事より棘も思うっしょ?」
そんな事とは、何だ。そんな事とは。
話を振られた毒ヶ杜さんは何~?と返事をしながら、自分の席から弁当箱を携えて、こちらに向ってきて、にこっと笑って言った。
「凄く美味しそうだね、目島君。こんなに美味しそうなんだもんしっかり全部食べないとね!」
「あっ、う、うん」
毒ヶ杜さんが話しかけてくれてるんだ。無視はできない。そう思った僕は、自分の弁当ではない、自分の弁当という不思議な弁当を持って返事をした。
「てかお腹空いたし、あたし達もお昼にしない?」
「さんせ~」
そう口々に言ってぞろぞろと取り巻きは教室を出て行く。毒ヶ杜さんも二人を追いかけようと走り出そうとした瞬間、立ち止まって僕の方を振り返り、やはり笑って言った。
「あっ目島くんまたね。お弁当しっかり食べるんだよ? お母さんに感謝しなきゃね。じゃあね」
そう言った毒ヶ杜さんは、廊下で呼んでいる二人に今行く~と返事をして教室を出て行った。
「……」
ごめんなさい。毒ヶ杜さん。
一気に静まった教室に残された僕は、毒ヶ杜さんに嘘をついた事に罪悪感を感じながら、そっと弁当に蓋をした。
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