人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。Ⅷ
***
「これから一ヶ月よろしくぅ~真島ぁ」
何とも馴れ馴れしくそう言って隣の褐色女は、手を上げた。
真島じゃねぇよ目島だよと心の中で文句を垂れて、よ、よろしくと控えめに挨拶をした。
「何、ビクついてんのよ~。あたしの顔が黒いからぁ? 日サロよ、日サロ」
聞いてねぇよ。てか、話しかけてくんな。クソビッチが。
僕は今深い悲しみの中にいるんだ。ほっといてくれ。
もう結果がどうなったか、ご察しが着いただろう。
そうだ。僕は毒ヶ杜さんの隣及び近くの席を獲得する事が出来なかった。
バカバカ僕のバカ。こんなんならパワースポット巡りでもして運気をつけておくんだった。
新たな僕の席は、窓側の後ろから二番目。その隣が一番望まなかったストーリー。毒ヶ杜さんの取り巻きのうっさい方で、そいつの前が取り巻きBの清楚系ギャル。
別に興味がないから多くは語らなかったが、主に毒ヶ杜さんには二人の取り巻きがいる。
取り巻きAが三人の中で一番うるさく、がっつりギャルメイクをした王道のギャル。って僕は何を言ってるんだ。ギャルに王道なんてあるのか。
まぁ、細かい事はいい。とにかく取り巻きAが金髪に褐色の、がっつりメイクをした声がでかい自ら私バカですぅと主張したうっさい女で、取り巻きBはある程度空気は読めるウェーブした黒髪の清楚系ギャル。
こっちはA程うっさくなく、むしろ静か気味な印象。それでもまぁ、ギャルはギャルだ。
何回も言うけど、名前は知らない。あくまで僕が好きなのは、毒ヶ杜さんであって取り巻きではない。
そして僕の保身の為に言っておくが、この二人は取り巻きで、いつも毒ヶ杜さんと一緒にいるから見えてしまっているだけで全く興味はない。
何たって名前知らないんだし。
「花、その子真島じゃなくて、目島だよ」
取り巻きAの前の席のBが静かにそう言った。
「あっ、マジぃ~メンゴメンゴぉ~あたし
こいつ、マジで腹立つ。ぶん殴りてぇ……おっと、紳士の心を忘れるところだった。ギャルだろうが、ビッチだろうが相手は女。手を上げることは男のルール違反だ。
「
椅子に横向きに座り僕の方を向いて、取り巻きBはひょこっと手を上げて言った。
それによろしくと小さく答えた。
で、だ。一番大事な事がまだ残っている。
そう、我らが天使、女神、ファム・ファタールである毒ヶ杜さんだ。
「席替えはいいけどさぁ~棘だけ席離れちゃったのマジつらみじゃない?」
「本っ当にマジ辛い」
横の取り巻き共、説明ありがとう。
そうなのだ。毒ヶ杜さんだけが……毒ヶ杜さんだけがぁ! 離れた席になってしまったのだ。
もう、本当にね、毒ヶ杜さんだけ、欲しかったのに……君らはお呼びじゃなかったのに……
何かもうゲーム買ったのに中身のディスクが入ってないみたいな、本体買ったつもりだったのにコントローラーだけ付属されてなかったみたいなそんな感覚よ、ほんと。
しかし、唯一の幸いは、毒ヶ杜さんは僕らとは正反対の廊下側の席なってしまったけど、周りが仕込んでんじゃねぇかと疑うレベルで見事に女子で形成されていた事だろう。
変な結果で、廊下側完全女子。真ん中完全男子。窓側その他の男女ごちゃまぜ。
あまりにも偏っていて、何かヤラセを感じざる終えない。
とまぁ、こんな感じで一段落した席替えだった。僕は腑に落ちてないけどな。
こうなりゃ、午後授業の修学旅行の決め事では、絶対毒ヶ杜さんと一緒になってやる。
そう心に誓って、僕は、机に伏せて袖を涙で濡らした。
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