人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。Ⅵ

***


 翌朝、僕はいつもの様に母さんの目覚ましボイスで目を覚ました。

 眠たいまぶたを擦ってベッドから起き上がると、とぼとぼと部屋を出てトイレに向かう。


 朝一のトイレを済ますとお次に洗面所に入ってしょぼしょぼの顔とぼさぼさの髪を整え、しゃこしゃこと歯磨きを始める。


「直!! 早く起きないと遅れるわよ」


 そんな母さんの声が背後で聞こえて振り向くと、洗面所を通り過ぎて二階への階段に向かおうとしていた母さんと目が合った。


「あら、何だ起きてたの。朝ごはん出来てるから早くしなさい」


 歯ブラシの刺さった口で、ふぁいと返事をすると母さんはせっせとキッチンに戻っていった。


 歯磨きを終えてリビングに顔を出すと朝の定番、トーストとスクランブルエッグのいい香りが鼻に入ってくる。

 席に着いていただきまーすと一声、朝食にありつく。


「母さん、僕の弁当は?」


 いつもなら朝食と一緒に弁当バッグに入った弁当箱がテーブルに置いてあるはずなのに見当たらない。


「弁当はってお弁当箱ないもん。作れないでしょう」


 昨日言っていた弁当箱の件はどうやら結局見つからなかった様だ。


「じゃあお昼どうするの? お小遣いこれ以上減るのやだよ」

「そこにおにぎり置いてあるでしょう。それ持っていきなさい」


 見れば目の前にはまるで朝食の一部のように食卓に同化した二つのアルミホイルに包まれたおにぎりが置かれていた。

 てっきり母さんが自分の朝食を横着して作ったおにぎりかと思ったが、どうやら僕のお昼らしい。


「お弁当箱どうするの?」

「なくなったなら仕方ないでしょ。新しいの買ってくるわよ」

「普通のでいいからね。あまり凝らないでいいから」

「分かってる」


 ちゃんとこう言っておかないとこっずかしいキャラものの弁当箱とか買ってくるからこの母親は。

 

 それから朝食を済ませた僕は再度歯を磨いて、部屋に戻って学校の仕度を始める。

 クローゼットを開けて制服を取り出すと、手際良く着替えてデスクに立てかけたカバンを持ち上げた。


「あれ?」


 そこで机の上に置かれた炭酸飲料のペットボトルが視界に入った。

 静かに手に取って、中身を見る。


「ん~?」


 さっきは寝ぼけ眼で気がつかなかったけど、昨日僕こんなに炭酸飲料飲んだっけ? 何か減ってる気がする。

 半分より上だったかさがペットボトルのちょうど半分くらいになってない、これ。

 気のせい……かな? もし減ってたとしたら誰が飲むんだよって話だよな。気のせい気のせい。


 「っと行かなきゃ」


 部屋の時計を見て、僕は持っていたペットボトルを机に再び置いて部屋を出た。

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