愛しの悪女さん
水無月二十日
序章
人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。
『人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない』
かの有名なドイツの理論物理学者、アルベルト・アインシュタインの言葉だ。
万有引力という単語を入れる事で、彼らしさの出たお洒落な名言だと僕は思う。
人が恋に落ちるのは、その人に魅力を感じて、好意を抱いたからだ。
つまりは好きになった、ということなんだけど、きっとアインシュタインが言いたいのは、そういう事じゃないんだろう。
見た目も性格もぱっとしない地味な僕は、いわゆる凡人で、学園カーストも割りと下の方。学校では、いつも縮こまって大人しく過ごしている。
出来るだけ、人と関わりを持たず、ひっそりと生活している僕は、そこに存在していないかの様に存在感がなく、まるで透明人間だ。
イジメとかハブられとかがあるわけじゃないし、単に誰からも必要とされてないというか、相手にされないというか、気にも留められないだけで、そんな毎日に満足し、繰り返して過ごしている変わり映えのしない学校生活を特につまらないとも思わず、それが当たり前になった僕が、それでも学校に登校する理由はしっかりある。
自分の席から左前方を見て、クラスメイトに周知されないように頬を
僕が学校に来ている理由。それは彼女を見るためだ。
瞳の先に映った女子クラスメイトはいつもと相変わらず、美しい。
女子クラスメイトと言っても、ただのクラスメイトではない。
彼女の名前は、
いわゆる学校一番の高嶺の花という奴で、学校の男子の票という票を総獲得した付き合えたら勝ち組確定のアイドル。
容姿端麗、成績優秀、眉目秀麗、文武両道。こんだけ四字熟語を並べても、足りない完璧少女。
腰まで伸びた艶やかな黒い髪に、上品に
社交的で明るく元気な清楚系で当然学園カーストはトップオブトップ。頂点を極めている絶対的存在。
そして、僕の想い人。
当然のように、魅了された多くの男子の中には、僕も入っている。
そして、更に当然のように、学校一の高嶺の花の彼女は、僕にとって手を伸ばしても決して届かない遥か彼方の存在。
だからこその憧れなのだ。彼女と、
だらしない顔で彼女を見ていると、一瞬彼女と目が合って、慌てて目を逸らした。
(やばっ!? 目合っちゃった)
顔を逆側に伏せて、しばらくやり過ごしてからそっと彼女を見ると、気にしてない様子で友達と談笑を続けていた。
心の中でほっと安堵して、上がりきった肩の力を抜いた。
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