作品タイトル『完結詐欺』

ちびまるフォイ

サグラダファミリア

ネタが思いつかないので自主企画をやってみることに。

名付けて、


『最終巻のあらすじだけ小説グランプリ!』


(ルール)

・本編は書かないでください

・最終巻にかかれてそうなあらすじを書く

・面白ければどうでもいい



「ははは。誰が参加するんだこんなの」


お酒の勢いもあってふざけて始めた自主企画だったが、

サイトの利用者は創造力にあふれている人ばかりですぐににぎわった。


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【 冒険者ヤマト伝説 】

異世界へとやってきた母親を追いかけてやってきたヤマトの旅も大詰め。

実の母親が魔王だったと知ったヤマトは逆にどうして現実世界に来ていたのか

そのルーツを探すため研究に没頭する。

やがて見つけたSLUMP細胞により世界の陰謀との一騎打ちが始まった!!



【 未来人間将棋 】

将棋のコマが擬人化されて未来が詰まれていることを知った仲間たち。

王手をかけたかに思えたが王が反転し「玉」になったことで形勢は変わった。

未来を変えるために彼らが取った最後の手段「ひっくり返し」とは……!?



【 ケダモノ☆ピュアリィ 】

思えば最初はなんでもない普通の入学式の始まりだった。

曲がり角でティラノサウルストぶつかって恋に落ちてからサイボーグになるまで

いろいろあった私たちの恋愛もついに大詰め。

ティラノ君、ジュラ紀に帰るってどういうこと!?



【 オフィス戦争2016 】

全人類が表計算ソフト『Office Exel』に閉じ込められてから、

主人公はついにセルの結合を覚えて脱出の糸口をつかんだ……はずだった

しかし、待っていたのはwordが主催する恐るべきデスゲーム。

はたして、元いた世界に戻れるのか!? 大どんでん返しの最終回!!


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「あはは。みんな自分が書かないからって、ムチャクチャ書くなぁ」


連載するとなると、どうしても「面白いと思われるものを」と思ってしまう。

つまんねぇと言われながら書き続けるモチベーションを維持するのは不可能だ。


でも、連載せずにふざけたあらすじを書くとなると

利用者が持っている暴力的な想像力が牙をむく。めっちゃ楽しい。


企画は大賑わいになり、投票の結果で俺のあらすじが最優秀賞となった。

その翌日に見慣れないメッセージが飛んできた。



>このたび、優秀賞となったあなたの作品を最終巻だけ書籍化したいと思っています。

>つきましてはご都合の良い時間に一度お話でも



「しゅ、出版社!?」


宛名を見て椅子から転げ落ちた。

話だけでも、出版社だけでも見ようと訪ねてみることに。


「いやぁ、あなたの自主企画拝見しました。

 とくにあなたのあらすじは面白そうだったので、

 ぜひ書籍にして売り出したいと思いまして!」


「いや……でも最終巻だけって……」


「お願いします! この通り!!」


出版社のごり押しもあって最終巻だけ出版された。

帯には最終巻らしく『極道ファンタジー堂々完結!』などと帯が巻かれ

巻数も32巻と、1冊しか出してないのにそこそこの巻数になっていた。


しばらしくしてから出版社からまた呼び出しがあった。


「大成功ですよ!! 予想の売り上げの400倍も売れました!!」


「さ、最終巻だけなのに?」


「最終巻だけなのにです! いまや社会現象になってます!」


「たしかにサイトでもパクリ企画は増えたけど……」


「で、このチャンスを生かすためにも我々出版社は考えたんですよ」


この日のために用意してきたであろうくす玉を両手でぶち割ると、

中からでかでかと垂れ幕くがぼろりと出てきた。


「エピソード・ゼロを作りましょう!!」


「ええ!? 架空の最終巻なのに、本編書かずに、前日譚書くんですか!?」


「絶対に人気出ますから! 乗りましょう、このビッグウェーブに!!」

「はぁ……」


とくに断る理由もないので了承して前日譚を書いた。

といっても最終巻につなげる予定もないのでふざけて書きなぐった。


入稿してから怒られるんじゃないかとびくびくしていたが、

出版社から届いたのは嬉しい悲鳴だった。


「バ カ 売 れ です!!」


「本編ないのに前日譚がバカ売れしたんですか? どうなってんだこの国」


「大事なのは話題性ですよ! 事情を知らない人たちが本編を探し始めるくらいですから!」


「そうなんですか!?」


気になって調べてみると、事実だったので驚いた。

最終巻の32巻しかないのになぜか31巻が出ていたりする。

しかもしれにバカみたいな値段で売られているから信じられない。


「これほどの人気だとは思わなかったです……。

 みんなあの最終巻に至るまでの本編が気になってるんですね」


「さぁ、どんどん書いていきましょう!」


その後も出版社からの指示でスピンオフ作品やキャラ設定資料など

最終巻に載ってない情報を小出しにちまちま出した。


本編への興味が原動力となり、周辺雑誌も鬼のように売れた。

売れすぎて地球環境の森が20%減少した。


「あなたのおかげで我が出版社は安泰ですよ!! ありがとうございます!」


「実は……そろそろ本編を書きたいなと思ってるんです」


「今なんて?」

「本編を書きたいです」


今までえびす顔だった担当の顔が一気に変わった。


「あなた正気ですか!! 今さら本編を書いてどうなるんですか!?」


「もう読者の興味を先延ばしにしたくないんです!

 ちゃんと本編を書いて読者の要求に応えたいんです!」


「そんなことするほうが読者に失礼ですよ!

 本編なんてすでに考察サイトなどでいくらでも話されていますし

 いまさら何を出しても面白く思われることなんてない!!」


これだけ人気になってしまった作品のため、

掲示板では前日譚と最終巻の間の展開をいくつもの人が予想し合っている。


「期待外れな完結をするくらいなら未完成の方がいい!

 ミロのヴィーナスだって腕がないからいいんですよ!

 想像の余地が残っているから話題になるんです!」


「あんたは読者から金をしぼりつくしたいだけだろ!」


「なにが悪いんですか! パンツを見せても誰も興奮しない!

 大事なのはチラリズムなんです!」


「俺はパンツで興奮するよ!!」


二人のパンツ論争は真っ二つに分かれた。

結局、出版社を通さない自費出版という形での本編を作成することになった。


権利的な都合で、先に出版した最終巻32巻の1巻ではなく

「新訳」として別に新しく出すことになった。


「どうせ、上がりきった読者の期待値を超えられないに決まってる」


出版社はあきれ顔だった。

そこで、出版社にも本を送ったところ180度くるりと変わった。


「こんな結末だれが想像できたんだろうか!

 読者の誰にも想像できなかったにちがいない!!」





「まさか、これが実は3部作の1つだったなんて!!

 いったい誰が想像できただろう!」

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