20日目

昼。

スズを連れて、

大学に行くと、

なんだかんだあって、

私は休学中なことが分かった。

『鳳玉』か『ミコト』の仕業だろう。

大学で会った友人に、

色々聞かれたが、

どうせ信じてもらえないだろう。

スズを連れてきているので、

講義に出る気はなかったが、

休学か……。

まいったな……。

とりあえず、

買い物でもして家に帰ろう。

買い物をして、

家に帰ると、

見慣れない車がアパートの前に停まっていた。

不審に思ったが、

集合住宅である以上、

私以外の住人に用があって、

ここに来る人間もいるだろう。

最近色々ありすぎて、

何でも自分に関係があると思いすぎている気がする。

私とスズはアパートの自室に戻った。

部屋の中には、

桐島がいた。

……。

何の用か尋ねたら、

「今まで何をしていた?」

と抑えてはいるが強い調子の声で言われた。

これまでのことを色々端折って説明した。

つまり、

スズを連れて逃げた。

逃げた後はどうしたらいいかわからないから、

そのままここにいた。

とだけ説明した。

『鳳玉』の連中に会ったことや、

『聖律教会』のアルセに会ったこと、

スズの力のことなど、

いちいち面倒になりそうなことは、

全て伏せておいた。

桐島は、

なんだか色々考えている様子だった。

「とにかく、お前達は『ミコト』の一員なんだから、勝手に行動されては困る」

そう言われた。

察するに、

本当は怒鳴りたかったのかもしれない。

拠点は壊滅、

生き残っているメンバーはいるかどうか分からず、

アルセとヒスイの戦いに巻き込まれたまま、

私とスズは逃げてどこかに行ってしまった。

ひとりで色々大変だっただろう。

だが、

私に戦う力はないし、

あのまま残って、

死体の処理もゴメンだ。

スズにそんなことをさせるのなど絶対に嫌だ。

しかし、

確かに一応、

『ミコト』に所属したことになってはいた。

といっても、

それは、

死か刑務所か所属するかの、

どれかを選べと言われたものであり、

強制的といわざるを得ない。

そもそも、

今は『鳳玉』と『聖律教会』からも誘われている。

『ミコト』にこだわる理由はない。

誘っている理由は、

昨日の出来事から察するに、

私ではなく、

スズの力が目当てなのだろうが、

それでも、

一応、私も誘われている。

所属した後どうなるかは分からないが……。

だがそのことは伏せたまま、

桐島と言葉を交わす。

しばらく言葉を交わし、

桐島の気持ちが落ち着いてきたところで、

桐島は重要な話があると言った。

私が何かと思っていると、

「実は、東京に送った例のホイッスルなんだが……」

「研究の成果が芳しくないらしい」

桐島が言うには、

東京に送った天使の動きを止めるホイッスルだったが、

研究所では成果があがらず、

実戦の使用もされたのだが、

天使の動きが止まらなかったらしい。

つまり、

戦闘の最中にホイッスルを吹くという、

間の抜けた行為をしただけということになる。

何度試しても、

たまに、

一瞬止まることもあるらしいが、

天使の戦闘能力を奪うほどの効果は得られなかったそうだ。

ふむ。

それが、なんだろう?

私だって何も知らないぞ。

「どうやら吹く人間によって効果の強さに違いがあるらしい」

桐島がそう言った。

なるほど。

だがそれなら、

私以外の人間をどんどん試してみればいい。

だが桐島から、

言われるまでもない。

と言われた。

当然、

色々な人間で試した結果なのだろう。

「私の報告書まで嘘だったのではないかと疑われている」

つまり?

「お前にもう一度あのホイッスルを天使の前で吹いてもらい、効果を証明してもらわねばならない」

断ると言ったら?

桐島は銃を構えた。

私は後ろに下がる。

「断るなら貴様を撃ち殺す!」

「私はこんな場所で立ち止まっているわけにはいかない!」

「大体! 貴様に会ってから、私は不幸続きだ! 貴様に会った瞬間、天使に襲われ、大切な部下を6人も亡くした! 私達の部隊は後方支援を目的としていて天使と直接戦うことなど初めてだったのに! 拠点に戻れば『鳳玉』に襲撃され、拠点まで失った! 仲間も何十人も死んだ! そして次は虚偽の報告をしたと疑われている!」

桐島が怒鳴りながら言葉を吐き出す。

どうやら、

色々溜まっていたものが、

堰を切ってしまったらしい。

「これ以上、私を怒らせるな!」

桐島はそう言ったが……。

ここで私を撃ったら、

桐島の報告は虚偽だったとみなされ、

立場を無くすぞ。

その旨伝えたところ、

桐島は銃口を、

スズに向けた。

「ならこれでどうだ?」

桐島はそう言ったが、

自分がどれだけ怖いことをしているのか、

理解しているのだろうか?

もし桐島が撃ったら、

スズは反撃してしまうかもしれない。

スズが反撃したら、

桐島はバラバラになる。

だが、

スズに人殺しをさせるわけにもいかない。

分かった。どうすればいい?

私はそう言って、

桐島に従うことを了承した。

「分かればいい」

桐島はそう言って銃をしまった。

スズが臨戦態勢に入らなくてよかった。

「では今から埼玉の拠点まで行く。準備してくれ」

桐島はそう言って、

部屋の外に出た。

どうやら電話をかけているらしい。

私とスズは準備をして、

その後、

桐島の運転する車に乗った。

移動の最中、

桐島に色々尋ねた。

それによると、

桐島の部隊は後方支援を主にしていた部隊で、

直接の戦闘よりも、

支援攻撃や最前線で戦っている部隊への補給などを主にしていたらしい。

大学への休学届けは『ミコト』の仕業ではないらしい。

そういうことが出来るのは『鳳玉』だと言っていた。

『鳳玉』には警察組織や公安組織などとの繋がりがあるそうだ。

そのことを聞き、

安易に警察に行かなくてよかったと思った。

『ミコト』の車にあった10万円を使ったことについては、

これから『ミコト』で働いて返せ、

と言われた。

そして、

私達は、

埼玉県の上尾にやってきた。

半ば強制的な選択だったが、

もしかしたら、

この選択が一番よかったのかもしれない。

『鳳玉』も『聖律教会』も、

ほしいのはスズの力だ。

だが『ミコト』は、

スズの力を知らない。

そして、私のことを必要としている。

ということはつまり、

『ミコト』に所属しても、

すぐに私を処分するようなことはない。

他のふたつはスズを手に入れた後で、

私をどうするか分かったものではない。

身の安全が保障されるという点では、

『ミコト』が結果的に一番よかった選択肢なのだろう。

私はとりあえず、

そう思うことにした。

埼玉の上尾に着いたのは、

深夜だったので、

今日はもう休むことになった。

明日から、

何かするらしいが、

とりあえず、

今日は休むことにする。

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