片想いのカタチ

人生

プロローグ

第1話_0 眩しさの理由




 これまで数多くの女性と交際してきた従兄いわく、〝女の子の表情を見れば恋をしているかどうか分かる〟ものらしい。


 相手を見つめる瞳や話す時の口調、そうした態度の端々から、感じられる何か。

 好きな人のことを話す時、その表情はきらきらと輝いて見える――


 乙見おとみ一紗かずさがそのことに気付いたのは、些細な興味がきっかけだった。

 ある女の子が、クラスメイトの女の子に向ける感情――その表情。


 気付けば、〝彼女〟を見つめていた。

 それは些細な興味で、疑問で、だけど胸の奥に引っかかって心をとらえる感情で。


 だから、たずねたのだ。



 彼女のことが好きなのか――と。



 そしてその問いが、一紗の日常を少しずつ変え始めていくのだ。




               * ――Kazusa




 隣を歩く彼女の、その横顔が眩しかった。

 それは遠く見える夕陽のせいかもしれない。


 あるいは、彼女が――


「それでね、純直すなおちゃんが――、」


 仲の良い友達について語る彼女は、なんだかとても楽しそうだった。

 なんでもないことなのに、笑みからこぼれる幸福感が、その場にいた訳でもないのに彼女の感じた気持ちをこれでもかと教えてくれる。


「ばっ、って飛び掛かったの。猫みたいで可愛かったなぁ」


「…………」


 何が良いのかは分からないけれど、きっと彼女にとっては微笑ましい想い出なのだろう。


 校門を抜ける、影が二つ。

 彼女との時間は、ここでお終いだ。


「じゃあね」


 こちらに向かってそう言った彼女の表情は、夕陽のつくる影に隠れてしまって、よく分からなかった。


「また明日、付束ふたばさん」


 その眩しさに目を細めながら、別れの言葉を口にする。

 それから、彼女に背を向けて歩き出した。


「…………、」


 数歩進んで、後ろ髪を引かれるようにふと振り向けば、夕陽に溶けるような後ろ姿が離れていくのが見える。


 ――あぁ、やっぱり。


 ……恋を、しているのだなと。


 改めてそう確信し、一人、帰路についた。



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