なるまでが一番大変
第2話 きっかけもしくは原因
僕は、極度の気にしいである。それに加え、僕が今現在籍を置いている場所は、一日13時間近く閉塞した人間関係の中で生活しなければならない。その中で、僕は自分の心がすり減っていくのを確かに感じていた。
どれだけ、気にしいかというと、向けられる視線や耳に入る噂話、そのほとんどが自分に向けられた悪意であるように感じられ、特に、影口を耳すれば、確証が得られるまで十割自分の話をしていると考えるほどだ。
この考えの根底を作ったのは、僕の中高の学校環境であったのだが、詳しくは割愛する。とにかく、友人と言える友人が一人もいないまま6年間過ごしたことで、僕はすっかり、人の顔色を窺い、波風を立てない生き方を所望するようになった。大学に入ってから、その傾向は減少したと感じでいた。近い価値観を有する友人を得て、僕はついに自分をさらけ出せる場所を見つけた思った。
しかし、それも研究室に配属されるまでのことであった。研究室の生活は、長い拘束時間に加え、体育会系の年功序列制、閉ざされた環境に根付いた伝統的価値観。僕の理解の範疇を越えるものが多かった。ここでも、僕の生き方は大いに役に立った。波風を立てないように、空気を読んで生きる。雑用を積極的に引き受け、いかに利用価値の高い人材であるかを示していく。そうすることで、研究室に自分の居場所を確保しようとしていた。配属から半年ほどは、うまくいっていたと思う。ノリの良い気配りの出来る後輩としての居場所を確立していたはずだった。誤算であったのは、僕があまりにも、この分野に不向きであったことだ。座学があまりにもできなかった。
そのことは僕に、不安と焦りを植え付けた。僕のいる研究室は、勉強ができない人に対する評価もこっぴどいのだ。全体の勉強会で、答えられないたびに、誰かが「そんなのもできないのか」と言っている声が聞こえる気がした。(事実、同期の一人が、影で言われているのを聞いていた)
できないなら、その分頑張ればいい。そう思っていた。
それなのに、僕は頑張れなかった。
頑張るにも気力と体力が必要だということは、あとになって知ることになるが、このときの僕は、頑張れない自分に焦りと嫌悪感を募らせる一方だった。
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