「報無豆学園の名探偵部」★★★★

 今回読んだのはキキョウ文庫出版、古町斧ノふるまちおのの先生の「報無豆学園の名探偵部」です。名前はどこかで……と思って検索したら「坂口さんは髪が長い」の作者さんでしたか。読んでないので内容は知りませんが、寡作ながら聞き及ぶ評価は高い作家さんですね。探偵物という触れ込みの今作ですが、読んでみれば謎1つにギャグ20個以上という高燃費ミステリーでした。

 以下あらすじ。


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 私立報無豆ほうむず学園は、日本某所に存在するどこにでもあるような普通の高校である。そんな報無豆学園名探偵部の部長・田中斜六たなか しゃろくと平部員・山川和藤村やまかわ わとうそんのもとには、日々報無豆学園で起こる様々な事件について依頼が舞い込む。純金肝臓盗難事件、狙われた茶道部の花瓶、そして怪盗・二面相からの挑戦状――。押し寄せる難事件の全てを、はたして斜六は解決することができるのか!謎が謎を呼ぶ学園ミステリー!

「和藤村くん、内容をまとめてくれ。後で僕がYah○o!知恵袋に投げておく」


 ――――――


 私立報無豆ほうむず学園に存在する部活動の中でも最も由緒正しく、学校創立と同じく四年の歴史を持つ名探偵部。その三代目部長・田中斜六が助手の山川和藤村と共に難事件を解決していく……というのがまぁ一応の話の筋であるのですが、実際紙幅の半分は茶番に使われております。


 開幕、「部長! 事件です!」と部室に駆け込んできた和藤村。その部室にいたのは、窓辺で退屈そうに煙草をふかす斜六。それに対する和藤村のツッコミが『もう! 外で吸ってくださいって何回言えば覚えるんですか!』であり、この時点でボンクラ小説であることが自明となる中々好みの導入。


 和藤村が持ち込んだのは、名付けて「純金肝臓盗難事件」。かつてこの報無豆学園で教鞭をとっていた生物教師が、競馬で有り金全部を賭けた三連単に勝利したその喜びに気を狂わせ、肝臓を純金製に置き換えてしまったという経緯から黄金肝臓ゴールデンレバーの二つ名を持つ、人体模型のサピエンス君。その肝臓が何者かに盗まれてしまったということ。


『一体、犯人はどうするつもりなんでしょうか?』

『さぁ? 只の愉快犯で、後からひょっこり戻す可能性だってありますよ。ま、僕なら闇ルートで売り払います、臓器とはそういうものです』

『臓器以前に盗んだ金塊です……』


 事件を解決するべく二人は事件前後の状況について、和藤村に依頼をした理科教師に話を聞くことに。そこである程度出入りをした人物は絞られ、現場検証からも考える材料がそれなりに揃います。

 そして部室に戻った斜六の発した言葉が、あらすじのアレなわけです。最初の斜六の人物紹介描写で語られていた信条、「他力本願、あるいはハルク・ホーガン」が垣間見えるシーンですね。何でも幼少期、熊を素手で触ったことがあるらしいですからね。ええ、想像通り動物園のアライグマの話です。なぜなのだー!

 結果として判明する真実ベストアンサーは……というところはまぁ、ネタバレありレビューとはいえミステリーですからね。最後まで述べるのは野暮ってもんですよ。それでも一つだけヒントを挙げるとするならば、ここまでの展開は全て茶番です。おいミステリー何処行ったこの野郎。

 とはいえ斜六と和藤村の力関係、学内での名探偵部の立ち位置、作品の雰囲気をここまでですっかり読者に掴ませてしまうのだから上手い構成です。


 続く第二の事件は、茶道部に届いた脅迫文の犯人捜し。

 脅迫文の内容は、部活動を停止し、茶室小屋を解体してタピオカ屋を始めろ、さもないと茶道部の所有する花瓶を破壊する……というもの。その花瓶はかつて茶道部顧問の教師が競艇に部費全額を(中略)というわけで買われた、時価五百万は下らない代物。これを割られる前に犯人を捕まえてしまいたい、というのが茶道部部長からの依頼です。


 そしてこの時、斜六が浪人と留年によって既に成人済の男であることが判明します。だから最初の喫煙シーンで、和藤村くんに校内で吸ってる点だけを指摘されてたんですね。


「しかし、セキュリティの薄いこの部室に置いておくのは少し不用心だな。解決するまで我々の方でお預かりしても?」


 と言って花瓶を預かった斜六。

 部室に帰る途中、手を滑らせて床に落とし花瓶を割った斜六。

 放課後の校舎、二人を包み込む静寂。

 そして事件は、解決から隠蔽へ……。


 この章を読んでの感想としましては、こいつら多分探偵より詐欺師の方が向いてるんじゃないですかね。思考のキレが違ったもの。「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ和藤村くん。それに嫌疑をかけられたなら、こちらも開き直って解体バラせばいいだけの話です」って探偵のセリフなんですかね。それに対する和藤村くんの「最初にバラしたのは斜六さんですけどね」ってツッコミも好き。

 そんで事態を丸く収めつつ脅迫の犯人も捕まえてしまってるから、なんだかんだ有能なのかもしれないですねこいつら。というかこの章だけ無駄にミステリー部分の完成度が高くて面白いのムカつくな。


 最後の事件は、怪人二面相からの予告状。怪人二面相、きっと裏表のある人間なんでしょう。

「四月果てる日、この学校で最も高価なものを頂戴する」なんて予告状の内容は大層なもんなのですが、ルーズリーフの切れ端に丸文字で書かれたものが茶封筒に入った状態で送られてくるのはさすがにズルくないですかね。


 ここまで事件も絡めて、校内でもっとも高価な品を探す二人。候補の目処をそれなりにつけますが、なにぶん当日は二人では決して人手が足りない。

 そこで駆け付けるのが、ここまで名探偵部に依頼してきた人達。皆で協力して、怪人二面相の目論見を阻止する熱い展開です。もちろん知恵袋にも投げます。


 しかし二面相は、斜六の想像を遥かに超えた犯行に及び、クライマックスの大波乱へ……! ここで斜六の信条が回収されるのもまた熱い。あのアックスボンバーのシーンはたぎりました。


 かくして報無豆学園に平穏が戻り、二人もまた凪いだ日常へ――とは簡単にいかず、今日もまた新たな事件が舞い込んでくるのでした。



 全体を通しての感想ですが、こっちが疲れるぐらいにギャグ多めで大変良かったです。オリジナル、パロディ問わず中々のセンスでございました。そして肝心のミステリー部分についても、全部ではありませんがよく練られていて高いクオリティーだと言えると思います。面白かったです。




 余談ですが、ミステリーには叙述トリックがあったりなどしますね。

 僕は一度も、和藤村くんが男とは書いてないですよ?

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