第4話
獣の耳と尾、身体能力を兼ね備えた人間種――獣人は、感情が急激に昂ぶった時にのみ、即座に身体組成を組み替え、「巨獣化」を行う事が出来る。通常は感情の鎮静によりその変異は終了し、元の人間体へと遷移するが……。
ごく稀に、巨獣形態を停止出来ず、そのまま身体組成を固定してしまう事例が報告されている。その場合、往々にして人間体の頃と比べ、思考力は大幅に低下し、破壊活動を繰り返す。
本来、キティーナは巨獣形態へ移行しても、思考力の保持や膂力の制御を充分に行える、いわば「希有」な獣人であった。
そのキティーナは現在――愛したはずの夫を狙い、暴風のような攻撃を繰り出していた。困惑する夫に構わず、彼女は純粋な殺意を以てして「破壊」を試みている。
何故、思考力の保持に長けた彼女が、ここまで獰猛な獣へと身をやつしたのか?
理由は――彼女が人間体の頃、首に感じた痛みにある。
「フフッ、効果はあったようですねぇ」
大木の太い枝に座り、微笑む女がいた。大型の狙撃銃を携え、クスクスと暴れ狂うキティーナを見つめている。
キティーナの首へ目掛け、精神の不安定化を引き起こす非殺傷弾――「心乱弾」を撃ち込んだのは、紛れも無く彼女……阿桑田ユリカであった。
気配を消し、長距離の移動が可能な獣人は、恐らく「鋭敏な精神」を利用しているはず……。ならば、その精神を逆手に取るのが肝要――。
ユリカはスコープを覗き込み、悍ましい巨獣の顔面を見やる。
「あらあら、一丁前に――」
泣いているではありませんか。
手慣れた様子で大木をスルスルと下りたユリカは、狙撃銃の形態変化を促すべく、目を閉じて手を翳した。
「さて……孝行、待っていてくださいな」
私が助けに参ります――ユリカは満面の笑みを浮かべた。
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