第5話
お前もか――。
パウド翁の言葉が意味するのはただ一つ、「既に他の執行者がオーフェン村を訪れている」という事である。
俄にユリカは小屋の中で読んだ依頼書の一文を思い出す。
但し、本日(七月一六日)までに三名の執行者が介入を終え、業務に当たっている。
そうよ、そうなのよ……私は一体何処まで愚かな女なの! 異世界への介入時条件を忘れた訳じゃないでしょう!
そう……そうよ、落ち着くのよ阿桑田ユリカ……貴女はいつも冷静沈着、孝行の伴侶たる人物よね? うん……あぁ、ようやく落ち着いたかしら……。
「ふんっ……ようやっと、人間臭い顔を見せたか」
枯れ木のような身体を揺すりながら、狼狽を見せぬよう努めるユリカを笑う老人は――何処か幸福そうな表情を浮かべている。
ほんの少しだけ眉をひそめ、ユリカは咳払いをした。
「……申し訳ありません、お見苦しいところを。さて、質問に答えてくださいますか、確かにパウドさんは獣人の女を――」
「見た、そして会い……歓待した。そして……」
幾年月もの時を経て、パウドは「相手が一番知りたく、しかしながら聞きたくない事」を悟り、また会話の中に差し込む技法を学んでいた。
少人数とはいえ村という共同体を纏め上げる人物に足るには、他者の思考を洞察する能力を第一に求められる。老村長パウドは見事にそれを会得し――残忍で愚かな来訪者にぶつける事にしたのだった。
「彼女の夫も一緒に……な」
激昂? 憤怒? 驚嘆? それとも――?
老いたパウドは徐々に速まる鼓動を聞いた。眼前の女が如何にして感情爆発を起こし、オーフェン村で殺戮を開始するか? 記念すべき四人目として、どのようにこの老人を殺害するのか……。諦観に混じる強い好奇心が、パウドの脳を刺激していく。
さぁ、この老いぼれを殺してみよ。冥府の土産に――お前をも連れて行く。
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