第2話
「それで、同じクラスの女子が何の用だ」
「わ、私……貴方の自己紹介を聞いて……凄い……仲間意識というか、そういうの感じまして……」
男子は眉をひそめた。
「えっと、それで……もしかしてなんですけど、私の事……庇ってくれたのかなって……はい、そういう事なんです」
不味い――話し終え、ユリカは全身が冷たくなった。
また私は喋り過ぎたんだ、また、また……嫌われるんだ。
黙って耳を傾けていた男子が、ゆっくりと歩み寄って来た。ビクリと肩を震わせ、ユリカは思わず頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! すいません、もう消えますから――」
「お前、何をそんなに怯えているんだ」
警戒の色濃い表情が、若干に軟化したようだった。それどころか……彼は少しだけ、笑っているようだった。
「……えっ? だ、だって私……」
「だって……何だよ」
「私……人と話すのが苦手だから……怒らせたかなって……」
「苦手、というよりは下手くそだ。それと……『怒らせたかも』なんて言う奴は、大体人の気持ちが読めないんだよ」
ユリカは――鈍器か何かで頭を殴られた感覚に陥った。
「何だよ、その顔。お前も読めないだろうってか?」
「い、いえ……」
「良いんだよ、俺は。……読み過ぎて疲れたんだ、読まない自由もあるだろう」
そんな自由があるんですか――ユリカは被せるように言った。
「あるよ。さっきお前が言ったように、ああいう自己紹介の場では面白可笑しく……誰かの興味を惹ければ、きっと今後の生活が明るいものになる。俺は分かっていた、面白く自己紹介出来る自信もある……」
男子は続けた。
「その空気を読み取った上で、俺はあえて……つまらねぇ自己紹介をした。お前を庇うつもりなんかサラサラ無い。『それでも話してみたい』と、一人でも思ってくれる奴がいれば――」
俺はそいつと仲良くしたい。
自分と同じ年齢の少年から……眩いばかりの光が溢れている。ユリカは思った。
彼は、本当にそう思っているんだ。自分を無理に変えず、適合者だけを求めているんだ――。
男子生徒の傲慢なまでの交友論に、ユリカは痺れるような感銘を受けた。
「じゃあ、もう行くぞ。これ以上付き纏うのは――」
「さ、最後に良いですか!」
何だよ――面倒そうに彼は振り返った。
「わ、私……友達が……欲しくて……だから! 私と……と、友達に……」
「欲しくて? 友達って関係なら誰でも良いのか」
「違います、違います……! そうじゃなくて……私――」
貴方と友達になりたい――。
一切の雑念は無く、純粋な彼女の叫びであった。眼前の男子と語り合いたい、更に交遊を深めてみたい――。
他人との繋がりを熱望し、裏切られ続けた……阿桑田ユリカの嘆きだった。
ユリカの言葉を聞き、幾分か驚いた様子の男子は――。
クスクスと笑った。嘲り、というよりは……ただ、楽しげに笑っていた。
「初めてだよ、こんなに頼まれたのは……」
悪かったな――軽く頭を下げた。
「酷い事、沢山言ってしまったよ……すまない。この学校では、なるべく友達を作らないようにしていたんだ……父親の都合で、近い内に引っ越すかもしれないから……」
「……じゃ、じゃあ……私が……! 引っ越すまで……貴方が少しでも楽しいって……思えるように頑張ります……!」
こちらこそ、よろしく。男子は右手を伸ばし、握手を求めて来た。ユリカは心臓を高鳴らせつつ、彼の大きな手を握る。
触れた瞬間……ユリカは、彼の手が自分の頭を撫でる光景を夢想した。
私、幾つも段階を飛ばした妄想を……はしたない女……。
「……どうした?」
「いえ、大丈夫です……改めて、阿桑田ユリカといいます。あ、あの!」
名前で呼んでも良いですか。
「距離感、詰め過ぎだろう」
少年は笑い、「別に良いよ、孝行で」と答えた……。
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