第42話 琥珀先輩とその2
「……では、昨日レンが質問した『私とあの方が一体どういう関係なのか』についてですが……簡潔に答えますと、今の真白さんが私
弁当をつまみながら琥珀先輩は本題を話してくれる。
「ん……?」
「変な噂を流されたり、付きまとわれたり……ということです。告白の言葉は毎度のこと『俺はお前じゃないと釣り合わない』……でしたね」
「昨日も真白のことそんな風に言ってましたね」
「レンは知らないと思いますが、私は財閥の者なのです。そのため、送り迎え等を要請してあの方との関わりを極力無くし……その甲斐あってあの方は私を諦めました」
「諦めた……?」
「……すみません、この言い方は違いますね。新一年生が入学し、相手を変えたというのが正しいでしょう」
一旦、間を開けた後に琥珀先輩は補足を入れてくる。
「……真白さんはアイドルとして有名ですし、歳も二つ離れているので圧力を掛けやすいという理由からがあったからだと思われます」
「……なるほど」
「私には罪悪感があります……。真白さんにこのような被害が出ているのは、間接的に私のせいでもあるのですから」
「それはまた別の問題では?」
この件に関して、琥珀先輩が悪いわけではない。琥珀先輩はあの先輩の粘着を振り切っただけでなのだから。
「そう言われればそうかもしれません……が、私に責任がないとは言えません。……ですから、私も複数の行動を起こしました。その1つが、真白さんを助ける協力者を得ようと言う事で、真白さんの親友である可憐さんに相談したこと。です」
「可憐に……?」
「はい。ですが……可憐さんの反応はこうでした。『気にしないで大丈夫ですよ、蓮がいるので』……と、一言だけ」
琥珀先輩は表情を変えることなく、飲み物を口に含んだ。
「はぁ、なんでまたアイツは根拠のないこと……」
「可憐さんには確かな根拠があったと思いますよ? 可憐さんは真白さんの幼馴染でもあり親友で、絶対に守りたい相手でしょうから」
「まぁ……そうですね」
真白を思う可憐の気持ちは蓮には十分に伝わっている。可憐は休み時間毎に『ましろんが心配だ……』と吐露しているぐらいなのだから。
「私は、可憐さんの言った『蓮』という者が一体どんな人物であるのか興味が湧き、昨日レンを探しました。……そのついでにお話が出来れば、と」
「……そして、俺を見つけたのは良かったが、偶然にもそこに翔先輩が現れたと?」
「はい。……それで、ここにレンを呼んだ理由の2つ目になるのですが」
琥珀先輩は予め用意していたのだろう、足元に置いていたカバンの中からポケットサイズの2つの機器を机上に置いた。
「これは?」
「ボイスレコーダーです」
「ボイスレコーダー?」
「はい、レンにはこれを聞いて頂きたいのです」
にこやかに答えた琥珀先輩は、再生ボタンをポチっと押しーーその数秒後、あの先輩の声が聞こえてくる。
『……琥珀と上手くいけばアイツの財産は俺の物だしなぁ。ああ、もちろん。お前達にも分けてやるよ。 ……ん? 大丈夫大丈夫。そん時はアイツを犯すぐらいはしてやるさ、アハハハ!』
そんな高笑いの後にボイスレコーダーの音声は途切れた。
「……これは私が撮ったもので、電話の相手はやんちゃな学生さん達でしょう。……どうですか、こんな言葉を聞いて」
「……琥珀先輩が抱く感情と同じですよ」
「それなら良かったです。もしですが……この
言葉を強調することなく、さりげなく発言する琥珀先輩の気持ちは良く分かる。あんなコケにされた言い方をされて、黙っていられる温和な人などいないだろう。
「辛辣ですね。微笑みながら言うので聞き間違えかと思いましたよ」
「仮に、レンがこんなことを言われたら私と同じ気持ちになるでしょう?」
「ええ。それはもちろん」
即答で蓮は答える。
「良い言質が取れました。……では、お仲間としてレンにもう一つのボイスレコーダーをお渡しします」
琥珀先輩は、スッともう一つのボイスレコーダーを差し出してくる。
あの音声が録音されたボイスレコーダーを渡してこないのは、蓮が録音された音声を誤って削除する可能性があるからだろう。
「良いんですか? かなり高価な物だと思うんですが」
「これであの方を懲らしめられる可能性が高まりますから。因みに、この声を録音したのは放課後の三年
「……え? それって、琥珀先輩が男子トイ……」
「なにか?」
「……いや、何にもないです」
ニコッと笑いながら、背後にドス黒いオーラを漂わせる琥珀先輩に、蓮はどうにか地雷を回避した。
「……あの方はそこで毎日やんちゃな方達と電話をしていますから、簡単に録音は出来ると思います。……本当は、私が録音しなければならないのですが、男子トイレに入っていたことをあの方に見つかってしまえば、私の弱みを握られることになります。その時点であの方を討つ手段がなくなってしまいますので……」
「そんなことは気にしなくて大丈夫ですよ」
琥珀先輩は、財閥の関係者としてもあの先輩に弱みを握れたくないのだろう。それは蓮にとっても好都合だった。
ボイスレコーダーの録音に成功しても、琥珀先輩の弱みを盾にされたら蓮は踏み込むことが出来なくなってしまうのだから。
「ありがとうございます。……真白さんのことに付いてなにかの証言が取れましたら、あの方は真白さんと関わりを持とうとはしないでしょう。あの方は周りの評判を一番に気にしていますから」
「……あの先輩がこのような発言をしてるのを間近で聞いたら、俺は抑えられそうにないですけどね」
「あらら、それは大変です。……ですが、その時は私にお任せ下さい。こちらもいろいろと手を打てますから……。と、その代わりと言ってはなんですが、この問題が解決したら、私と交際しませんか?」
「…………は?」
口元に手を当てて、小さく咳払いした琥珀先輩は、歴然とした顔でとんでもないことを言いだした。
「交際を経て私と婚約して頂ければ、レンは権力も財産も手に入ります。とてもお買い得ではないでしょうか?」
本気か、冗談か、それは琥珀先輩の表情に出てはいない。つまり、蓮にはどっちが正解なのか分からない。
ーーだが、蓮の答えは決まっていた。
「すみません」
一言、そう答えた。
「理由をお聞きしても?」
「異性として気になってる人が居るんです。……それに、そんな条件で真白を助けようとしているなんて思われたくないので」
「うふふ、なるほどです。可憐さんがレンを信頼する理由がようやく分かりました。……では、このお話も終わった事ですので、別件のお話にお付き合いして頂けますか?」
「はい、それでしたら構いません」
態度が崩れていない様子を見るに、あの告白は冗談だったようだ。
冷静に考えてみれば、こんなにも容姿の優れた相手が、出会ってまもない相手に告白をする可能性は無いに等しいだろう。
(……ふふっ。こうも簡単に振られてしまっては、私を振ったことを後悔させたくなりますよ……レン?)
そんな心の呟きをする琥珀先輩を他所に、蓮はボイスレコーダーを丁寧にポケットの中にしまうのであった。
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